日本労働研究雑誌6月号

(独)労働政策研究・研修機構様から、日本労働研究雑誌6月号(通巻683号)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。今回の特集は「マクロ的な観点から読み解く労働問題」となっています。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2017/06/index.html
特集の趣旨からして経済学、それも理論・計量であって私には正直手に負えないわけですが(笑)それでもまあわかりそうなところを拾い読みしてみました。福岡大学の玉田桂子先生の論文「マクロショックが地域の雇用の変化に果たす役割」では全国7ブロックの就業率の変化率を全国共通、海外、地域固有のそれぞれのショックに分解しているのですが、全国共通のショックは全体の2%〜24%、海外は数%に過ぎず、75%〜95%が地域固有のショックという結果が示されています。したがって雇用対策は全国一律ではなく地域別の対策が望ましいというインプリケーションになるわけですが、よくわかりませんがこれって結局は公共事業という話になるのかしら。論文中では厚生労働省地域活性化雇用創造プロジェクトに言及されていて、これはまだ始まったばかりなので効果のほどはこれからですが…。
東大の中林真幸先生の論文「雇用の長期的な趨勢」では、高度成長期においてはわが国には大きな中途採用市場が存在していて労働移動も多く、1971年にはじまる雇用調整期においては中途採用の抑制が主要な役割を果たしたことが示されています。それに対して1999年以降の雇用調整については中途採用市場は縮小していてあまり機能せず、残業抑制が主要な役割を果たしたと指摘されています。中林先生はその理由を主として新卒一括採用の定着に求めておられますが、私はなんとなく好条件の転職先が容易に見つかった高度成長期には中途採用市場が拡大し、好条件の転職先が稀少になっていった安定成長期・低成長期には中途採用市場が縮小したというのはたいへん自然なことのように思われます。
経済学者の論文が並ぶ中、静岡大学の本庄淳志先生が論文「ビジネスをとりまく環境変動と労働法」で労働法を「マクロ的な視点から読み解く」ことに果敢に挑んでおられます。不確実性の増大というマクロ的な趨勢下では流動化と多様化が進展し、それに対応した労働法制が必要だという結論は、たしかに本庄先生も指摘されるとおり伝統的な論者からは批判を受けるものでしょうが、しかし実務的・現実的には納得がいくもの、少なくともそれに備えた議論は進めておくべきものだと思います。