求められる人材

本日の日経新聞朝刊に、企業の採用担当者の座談会が掲載されていました。「旭化成キリンホールディングス(HD)グループ、日産自動車、日本マイクロソフトの人材開発担当者らが参加。」ということで、それぞれの役職をみても採用第一線の責任者といった感じなので、かなりの程度企業の本音に近い話が出ているのではないでしょうか。以前も書いたと思いますが、マスコミなどが経営者に「御社の求める人材は」とたずねると、まあ端的に答えなければならないので致し方ないのでしょうが、案外実務の第一線とは異なる回答になってしまうことがままあります。そういう意味でも価値ある記事ではないかと思いますので一部備忘的に転載しておきます。

 ――入社間もない社員に今後期待するスキルを挙げてください。

 林(日産自動車) グローバル人材として外国人と互角に勝負できる能力を求めている。文化背景や考え方が異なる人と競争するには、まず相手の考えを深く理解することが重要。そのうえで自分の意見をきちんと言う、判断する、論理的に相手を説得できる力が必要だ。

 上野(キリンHD) 将来はグローバルに活躍する人材に育ってほしいが、まずは目の前の与えられた仕事を一人前にできることを重視している。最初の仕事が何であれ、そこの専門性を自分のものにすることが大事。5年ぐらいで一人前になり、そこから次の可能性にチャレンジしてほしい。

 奥田(日本マイクロソフト) マイクロソフトにとって新入社員はチェンジエージェント(改革推進者)。その役割に大いに期待している。IQ(知能指数)だけでなくEQ(感情知能)の高さが大切。相手を理解し、空気を読み、グローバルに仕事をしていく力を求めたい。

 佐々木(旭化成) 日本企業全体の傾向として30代社員が少ないが、20代後半の社員は十分にいる。数年上の先輩の中から手本になる人を見つけてスキルアップしてほしい。
平成24年10月16日付日本経済新聞朝刊から(社名は引用者が追記)、以下同じ)

経営トップに外国人を戴く日産自動車さんにして「グローバル人材として外国人と互角に勝負できる能力」とは「相手の考えを深く理解する」「自分の意見をきちんと言う、判断する、論理的に相手を説得できる力」、要するにコミュニケーション能力なのですね。あるいは、外資系、しかもIT企業(だからなんだというわけでもありませんが)の代表選手と目される日本マイクロソフトさんにして「IQ(知能指数)だけでなくEQ(感情知能)の高さが大切」「相手を理解し、空気を読み」グローバルに仕事をするのだというわけです。ちなみに日産の林氏は別のところでも「グローバルに活躍するには、相手の気持ちを読むことが重要。そういう点は、もう少し鍛えた方がいいと思う」と発言しておられ、いやこれジョブ型雇用厨の方々が卒倒しそうな話ですね。そんな中で、純日系のキリンHDさんから唯一「専門性」という語が出てきているわけですが、「最初の仕事が何であれ」「目の前の与えられた仕事」というわけですから、職業教育への期待はほぼゼロという印象です。善し悪しはともかくこれが実態ということでしょう。

 ――若手にどのような人材に育ってほしいと考えていますか。

 林(日産自動車) 一人ひとりが主体的に周りをけん引できる人材になってほしい。部門ごとのスキルを身に付けたうえで、広く高い視点を持ちながら正解に引っ張っていくグローバルリーダーを育てたい。英語の力はもちろん必要だが、まずは日本語で相手にシンプルに伝える能力が求められる。

 奥田(日本マイクロソフト) 殻に閉じこもらずチャレンジし続ける精神を持ってほしい。失敗しても構わない。自分一人の力では無理だとしても、色々な人を巻き込んで、会社と一緒に成長してほしい。

 上野(キリンHD) いずれ日本にとどまらず世界で活躍してほしいが、その原点はスーパーや飲食店、飲料を中心としたお客様の生活にある。世の中に貢献したいというエネルギーを原動力にしてほしい。

 佐々木(旭化成) グローバル化というと欧米のイメージが強いかもしれないが、海外売り上げのメーンは新興国。自分の仕事が新興国の人の生活をどのように改善できるかなど、想像力と覚悟を持ってほしい。どのような相手とも仕事ができる専門性と主張力が必要だ。

さすがに将来像となるとスキルや専門性という語が出てきますが、それでもなお日産自動車さんは「まずは日本語で相手にシンプルに伝える能力」とコミュニケーション能力にこだわりがあるようです。日本マイクロソフトさんの「会社と一緒に成長してほしい」もメンバーシップ雇用の発想ですよねえ。グローバル人材がヘチマとかイノベーション人材が滑った転んだとか人材をめぐる議論はあれこれありますが、採用実務の現場は従来からそれほど変化しているわけでもなさそうです(繰り返しになりますがここでそれがいいとか悪いとか言うつもりはありませんので為念)。