被災地訪問

昨日書きましたとおり、日本キャリアデザイン学会研究大会の被災地見学プログラムに参加して石巻市に行ってまいりました。
ご案内・ご説明いただいたのは地元の中小企業経営者の方で、震災前は原発関連の施設の据付作業の請負などをされていたそうです。震災後は原発関連の仕事は望み薄でしょうが、まあ復興需要が出てくれば事業は十分やっていけるものと推測され、実際お話を聞いていてもそれなりに先の見通しはありそうな印象を受けました。
まず日本製紙石巻を中心とした工業エリアから入ったのですが、壊滅的な打撃を受けた同地域も生産活動はほぼ震災前の水準に戻っているとのことで、たしかに被災の痕はまだ見られるものの日本企業の底力をあらためて感じるに十分でした。日本製紙石巻の従業員千数百人は、隣接の高台にある社宅に避難して全員無事だったとのことで、たしかに見たところ4〜5階建くらいの集合住宅でしたので十分に難を逃れることはできたでしょう。ただこれについてはご案内いただいた方が「やはり大企業は避難訓練とかもしっかりやっておられて、整然と避難されて無事だったのはさすがだと思うが、周辺住民には死者・行方不明者も出ており、地域・周辺住民もいっしょになった避難体制づくりや避難訓練が行われていれば、と思う」と言っておられた(かなり強い思いがあるらしく繰り返し言っておられました)のが印象に残りました。
次に低地の旧住宅街、報道などでもたびたび紹介される門脇小学校周辺に行きましたが、このあたりは住宅の基礎部分が残るばかりで一面の空地になっていました。かつての住民の方が説明をしてくれたのですが、基本的にこうした低地には住宅は復旧しないという方針にはなっているようで、そういう意味では空地のままというのもわからなくはありませんが、しかし跡地利用についてはまだ具体化していないというのは…まあ、コンセンサスを得ながら進めるのには障害も多いということでしょうか。ここでは別の被災地視察の団体も来ており、かなりの数の視察者が来訪しているそうです。
なお余談ながら、後日「NHKスペシャル」を見ていたところ、リポーターの方がまさにその場所からレポートをしておられ、ああここ見に行ったなあと思いながら見ていたところ「このように被災地にはまだまったく支援が行き届いておりません」と言っていたのには驚きました。いやもちろんさまざまな事情で支援が十分行き渡っているとはいえない状況にあることは私もまさにこの見学プログラムで確認できたところなのですが、しかしこの光景を映して「まだ行き届いていません」はないんじゃないかなあ。もともと(元のような住宅地には)復旧させない計画の土地なんですから。
話がそれましたが、当日は続いて港近くの水産加工エリアを見学しました。ここでは一口に申し上げて格差が非常に大きいという印象でした。この一帯は震災で1m以上地盤沈下したということで、そのままの土地に工場を再建すると満潮時には浸水してしまうため土地のかさ上げが必要になるところ、そのかさ上げを誰が・どんな規格で・どんな手順でやるのかということがまだ決まっていないのだそうです。したがって、それを待っていられない資金調達力のある企業はそれぞれ自前でかさ上げを行い、生産施設を再建して生産を再開しているのだそうで、さすがに休日でしたので稼働している企業は見当たりませんでしたが、しかし真新しい工場建屋や事務所が再建されている光景はたくさん見受けました。当然ながらかさ上げなどの規格はそれぞれバラバラであって統一されているはずもなく、ご説明いただいた方も「これからどうするんでしょうねえ」と困惑しておられました。いっぽうで資金調達力のない企業は公的な支援を待つしかなく、したがって被災したそのままの姿で放置されている工場というのも相当にあり、まあ目分量ではありますが全体では3割くらいの復旧という感じでしょうか。それでも、休日にもかかわらず整地・かさ上げ作業のために重機が動いている現場というのもいくつか見かけましたので、行政の遅れはさることながら、民間の中にはけっこう力強く復旧に歩んでいる姿も多くみられて頼もしく思いました。
続いて商業エリアの立町周辺を見てきました。このあたりは破壊的なダメージはなく、むしろ洪水のように浸水したという被害だったようです。おそらくは地方都市の例にもれず被災前からある程度はシャッター通り化していたのではないかと思うところに今回の被害で、再建の意欲を持ちにくい店舗もあるのかなあと思いました。いっぽうで、たぶんもともとは駐車場ではなかったかと思われる小広いスペースに仮設店舗が並んだ一角には買い物客の姿もあってそれなりに活気もあり、おそらくは復興需要の本格化はこれからでしょうから、そうなれば店舗の再開も進むことを期待したいものです。
最後に日和山公園に上って被災地を展望したのですが、旧住宅地はもちろんのこと、北上川の両岸や中洲なども(震災前の写真が掲示されていたのですが、それと比べても)非常に空地が目立ち、まあこれからだなという感じでした。ここにも先ほどとは違う他の視察の団体が来ていました。
ということで、ご説明いただいたのが現地の方ばかりでしたのであまりはっきりとは言われなかったのかとも思うのですが、やはり行政の停滞というのは相当にありそうな印象を受けました。たしかに資金や支援を必要としている現場にそれが十分に行き届いていない現状はあるのですが、もともと予算などに制約があるということもあるとしても、予算はついているんだけれど使い方がわからないとか使い道が決まらないとかいった事情もかなりの程度あるのではないかと思われます。
いっぽうで、まあ本当にダメージの大きかった人はこのあたりには出てこないということはあろうとは思いますが、少なくとも私に見えた範囲の人たちはかなりの元気をもって再建に取り組んでいるように思われましたし、町行く人たちの表情も決して暗くはなく冷静なように見えました。もちろん政策的な支援は継続的に必要でしょうし、具体的な実行が急がれる場面だろうとも思いますが、上で書いたNHKのように実態以上の演出に利用することはいかがなものかという感想も持ちました。