第2象限の人材

まず大橋勇雄先生の「第2象限の人材」というエッセイです。
http://www.sanseiken.or.jp/forum/89-hatugen.html

 下記の図1は、1999年にリパック教授とスネル教授によって構想されたもので、人材のアーキテクチャー(Architecture)として有名な構造図である。横軸には人材の価値がとられ、縦軸には人材の企業特殊性がとられている。ここで人材の企業特殊性とは、従業員が習得した技能や知識のうち、希少で他企業には真似の難しい、移転不可能なものを意味し、これこそが企業にとって競争優位の源泉になるとされる。
 図1の第1象限には人材の価値と特殊性がともに高いコア従業員が配置されているが、彼らが保有するコア・コンピタンスは企業内部で展開されるべきものであり、他の象限の資源は外部労働市場からの調達でもよいとされる。理由は、特殊な環境や人と人との相互作用が必要とされるチーム作業の職場では、暗黙知が必要であり、それは企業内部でのキャリアーパスを通して形成され、本来的に企業特殊的であることによる。他方、パートなどの非正規従業員は、コア従業員とは対極的な第3象限に配置されている。

 上で紹介した概念図について筆者が疑問に思うのは、あまりにも人々の目が第1象限と第3象限の差に捕らわれ過ぎていることである。その背景には非正規従業員の増大や賃金格差の拡大が人々の念頭にあるのだろう。ところが、筆者にはこれからの日本企業にとって第2象限こそが戦略的に重要な人材に思える。設計や研究開発、システムの技術者、あるいは外商などかなり汎用性のある知識や技術の持ち主で人材としての価値の高い人々である。

 第2象限の人材の興味は、昇進よりむしろ新しい技術の展開や同業仲間での評判にあり、後継者の育成にはあまり興味を示さないという。また自分の選んだテーマなら働く時間が長くなることも厭わない。しかも彼らのもつ技能や知識には汎用性があるだけに、自分にとって働きやすく、能力が発揮できる職場であれば、転職も辞さないだろう。それだけに従来型の処遇では対応が難しい厄介な人達である。日本の産業界は、非正規と正規従業員の違いばかりではなく、今や第2象限の人材の育成や評価、処遇にもっと注目すべきであろう。特に彼らを育て、鍛える装置として企業横断的で、かつ国際的な広がりをもつ仕組みが必要に思われる。

ウェブでは紙媒体の図表が掲載されていないのはちと不親切ではないかと思うのですが、まあ意味はわかりますね。
大橋先生らしく(私ごときが申し上げるのも失礼ですが)現実的でバランスのよい意見だと思うのですが、できれば具体的にどうするかというところまで書いてほしかった感はあります。もっとも想像は容易にできるわけで、賃金は基本的に外部労働市場の需給関係で決まるマーケットプライスということになるでしょう。加えて、職歴だけでは能力を十分に表示できない可能性があるので、企業横断的にスキルを保障するしくみ(キャリア段位のようなものでしょうか。どうもこのネーミングはセンスが悪いように思うのですが)もお考えかもしれません。これは第1象限の人材にはほぼ無意味だろう…いやこれはちょっと言い過ぎかな。まあ効果は限定的だと思いますが、第2象限の人材についてはそれに較べればかなりの効果が期待できるかもしれません。そして、「職種限定で(第1象限に較べれば)雇用保障の強くない期間の定めのない雇用契約」を予測可能性の高い形で可能とすること、ということになりますね。