生活対策

先月末に政府・与党が発表した追加経済対策「生活対策」が、官邸のサイトにアップされていました。
http://www.kantei.go.jp/jp/keizai/images/taisaku.pdf
例によって労働関係の内容を拾い上げて見ますと、「<第1の重点分野>生活者の暮らしの安心」の「1.家計緊急支援対策」の中にこうあります。

 勤労者の生活・消費を支える「賃金引上げ」の環境づくりを進める。そのため、国民の負担軽減の観点から、積立金残高の状況を踏まえ、セーフティネット機能の強化と併せて、「雇用保険料引下げ」等へ向けた取組を進める。
<具体的施策>
○経済界に対する賃金引上げの要請
雇用保険の保険料引下げ等に向けた取組

もちろん、この項目の目玉は例の「総額2兆円の生活支援定額給付金」で、給付対象などをめぐってゴタゴタしているようですが、「賃上げ要請」もまだ忘れたわけではないようです。このところ相次いで発表されている主要企業の中間決算をみると、およそ賃上げどころではないような業績悪化となっているものが多いのですが…。
ダメモトでもやらないよりマシ、ということかもしれませんが、春闘に向けて政治があまり賃上げ、賃上げと言い過ぎて、蓋を開けてみたらベアは小額にとどまった、ということになると、内閣や与党の支持率は一段と低下、ますます総選挙には踏み切れず、やがてズルズルと任期満了を迎えて与党大敗…ということになりかねないと思うのですが。まあ、そこまで大した問題ではないのでしょうか?春闘前に解散に打って出る覚悟だということかもしれませんが、そこで都合よく「賃上げ要請」を忘れるわけにもいかないでしょうし…。このあたりが引っ込めどころだったと思うんですけれどねぇ。この情勢なら引っ込めてもそれほど批判はなかったと思うのですが…財源不要の大衆迎合策という魅力には勝てないのでしょうか。
また、「雇用保険の保険料引下げ」も、これから雇用失業情勢が悪化し、失業給付も増える危険性が高いのに何を考えているのだろう、という感じですが、これについては「セーフティネット機能の強化等と併せ、関係審議会において労使と十分協議した上で検討、結論」という但し書きがついていますので、おそらく慎重な検討がなされるでしょう。政府・与党としてみれば、労働保険特会の積立金という「埋蔵金」にのどから手が出ているので、その見返りとして労使には保険料引下げで取引しようということかもしれません(邪推です)が、さてそううまく行きますかどうか…。
続いて「2.雇用セーフティネット強化対策」として、こうあります。

◇景気後退による雇用の影響が最も出やすい非正規労働者、中小企業や地方企業を中心にセーフティネットを強化し、60万人分の雇用下支え強化を行う。
<具体的施策>
非正規労働者の雇用安定対策の強化
年長フリーター等(25〜39歳)の積極雇用の支援強化
― 事業者に対する特別奨励金の創設(3年間集中実施)
・「非正規労働者就労支援センター」の増設(3カ所→5カ所)等
・ジョブ・カード制度の拡充
― 訓練期間中の生活保障給付の返還免除対象者の拡大等、雇用型訓練に対する助成の拡充
ジョブカフェの機能拡充等
○中小企業等の雇用維持支援対策の強化
・事業悪化している中小企業の雇用維持支援の拡充
中小企業緊急雇用安定助成金の拡充
・雇用調整による休業等に対する助成の拡充
雇用調整助成金の要件緩和・助成率引上げ
○地域における雇用機会の創出
・地域における雇用機会の創出(「ふるさと雇用再生特別交付金(仮称)」創設)等
― 雇用情勢の厳しい地域における安定的雇用機会の創出、職業訓練の強化

景気後退による雇用の影響が最も出やすい非正規労働者…を中心にセーフティネットを強化、という考え方は妥当なものだとは思います。ただ、これまでもこのブログで繰り返し書いていますが、現実には労働需要が減退しているから失業が出るわけで、教育訓練とかジョブカードとかいった供給サイドの対策や、ジョブカフェなどのマッチング機能強化(ジョブカードもこちらかな)は、効果がないとまでは申しませんが、大きな期待はできないだろうと思います。
そう考えると、これのどれがどうなって60万人(失業率1%相当でしょうか)になるのかよくわからないのですが、雇用調整助成金などによる下支えは悪化の防止には一定の効果があるとして、需要を増やす効果があるのは「地域における雇用機会の創出(「ふるさと雇用再生特別交付金(仮称)」創設)等」に期待がかかることになりそうです。しかし、これってなんなんでしょう?とりあえず朝日新聞のサイトによれば…

 厚生労働省は22日、都道府県に交付金を配分し、新規事業を実施させることで雇用創出を図る「ふるさと雇用再生特別交付金(仮称)」を新設する方針を固めた。政府が今月中に策定する新総合経済対策に盛り込みたい考えで、与党や財務省と調整している。
 予算規模は3年間で2500億円程度を想定しており、財源は労働保険特別会計のうち企業負担の雇用保険料分でまかない、一般会計には影響しない見込みという。
 素案では、雇用情勢が特に悪い自治体を中心に交付金を配り、企業や非営利組織(NPO)に委託するなどして事業を実施し、失業者を雇う。対象事業は、介護や地域活性化に結びつくサービス業などを想定している。
 厚労省は00〜01年や02〜04年にも、類似の交付金を一般会計を財源にして設けている。その際は雇用期間を6カ月未満に限定したが、今回はそれより長い期間を認めることも検討している。
http://www.asahi.com/job/news/TKY200810220316.html

むむむむむ。たしかに、00年代前半は「失対事業の二の舞にならない」とかいった理由で、雇用期間を6ヶ月に限定していました。それでもまあ、仕事がない期間の「つなぎ」としては有用で、当時のさまざまな雇用対策予算の中でも最も消化が進んだと記憶しています。で、今回はわざわざ「安定的雇用機会の創出」とうたっているわけですから、さすがに6ヶ月を上限とはまいらないわけですが、それにしても安定的雇用機会が創出されるにはまず事業が安定しなければならないわけで、この厳しい経済情勢下で「交付金を配り、企業や非営利組織(NPO)に委託するなどして事業を実施」というスキームがどれほど順調に行くものかどうか…。で、ここで雇用保険の積立金を使うわけですね。まあ、これで首尾よく失業者が減り、失業給付も増えなかったということであれば、失業者が増えて積立金を失業給付に使うよりはマシだ、という理屈にはなるのかもしれません。不首尾に終わったら目も当てられませんが…。
あと、年長フリーターの雇用に対する特別奨励金は、悪くはないとは思いますが、以前の人手不足状態のうちにやっておけば効果はずっと大きかったのではないかという気はしますが…。