制度上の差と実際の差

きのう取り上げたhamachan先生のご紹介に関して、私自身の感想も書いておこうと思います。私がなんといっても関心をひかれたのは、成果主義導入に関する「(賃金)制度上の格差」と「実際の格差」の調査結果です。

成果主義の導入の結果として、賃金格差は広がっただろうか。同一部門の課
長レベルの正社員の実際の年収格差が2000 年以降どのように変化したかを尋ねたところ、回答企業全体では、40.5%が「広がった」と答えており、「変わらない」がほぼ同じ比率で42.7%、「縮まった」が10.0%であった。
 それでは、格差の大きさはどの程度だろうか。調査では、同一部門の課長レベルの正社員に対する(1)賃金制度上ありうる年収格差と、(2)実際の運用で生じる年収格差について…(平均を100と指数化した時の最高と最低の差を格差として)制度上の格差の平均値は40.7、実際の格差の平均値は30.5であり、2004年調査の制度上の格差の平均値の40.1、実際の格差の平均値の31.1とほぼ同じ水準であった。2000年以降の賃金格差の広がり別にみると、格差が広がった層では、制度上の格差が43.8だが、格差が縮まった層では、制度上の格差が40.7とやや小さい。また格差が広がった層では、実際の格差は32.8、格差が縮まった層では、実際の格差が26.8と6ポイントの開きがあった。格差が変わらないとする層は、制度上の格差が36.7と最も低く、実際の格差との差も7.8と最も小さい。制度設計上格差を小さめにした企業では、制度と実際につけられる格差との開きが小さめに出ていると言える。
http://www.jil.go.jp/press/documents/20080901.pdf

制度上は4割の差がつくことになっているけれど、現実にはそこまで極端な運用は行われず、現実には3割の差にとどまっている、ということで、さらに言えばこの3割にしたところで最高評価と最低評価の差ですから多分に異常値なわけで、現実には大半の人たちがそれよりさらに狭いレンジの中におさまっていると考えたほうがいいのではないでしょうか。「制度上差がつく」と「実際に差がつく」というのはまったく別物であるにもかかわらず、成果主義華やかなりし当時は成果主義賃金を打ち上げた企業に対してマスコミがこぞって「こんなにも大きな差がつく大胆な改革!」ともてはやしたことがありました。それが勘違いであることに気がつく前に成果主義ブームのほうが終わってしまったようですが、実際に人事管理を考える際にはこうした冷静で現実的な議論が必要なように思います。