抜けない偏見

森喜朗元首相が嘉田滋賀県知事について「女性だから視野が狭い」と言わんばかりの発言をしたと報じられていました。

 森喜朗元首相は9日夕、富山市内で開かれた参院選立候補予定者の講演会で、滋賀県栗東市内で計画された東海道新幹線の新駅建設問題にふれ、嘉田由紀子・同県知事が建設に反対していることについて「女の方だなあ、やっぱり(視野が)狭いなあと思った」と語った。
 北陸新幹線の関西圏への延伸について説明する中で発言したもので、福井・敦賀から滋賀・米原への延伸方法を示し、「問題がある。その一つが、滋賀県の『もったいない知事』」とも述べた。
 森元首相は「日本列島が全部新幹線でつながると、人の動き、ものの動きが変わる。その中、(新駅がないと)滋賀県が恩恵に浴するのは米原しかなくなる。そこまで考えて施策はやらないといけない」と話した。
 森元首相の発言について、嘉田知事は9日夜、読売新聞の取材に対し、「前後の文脈がわからないので(女性軽視にあたるかどうかは)コメントしかねる」としながらも、「新幹線新駅が不要だということは、滋賀県民の判断。財政難の中、優先順位を考えたら税金を使ってほしくないということで、男とか、女とかの問題ではない」と話した。
(平成19年7月10日付読売新聞から)

いや、たしかに、嘉田滋賀県知事が「視野が狭い」というのは、一面の事実ではあろうと思いますよ。で、その視野の狭さを滋賀県民が「よし」とした、というのも事実なわけで。もちろん、森元首相の所論も(嘉田滋賀県知事の所論が一面の正論であるのと同様に)おおいに一面の正論であるといえましょう。まつりごとにあたっては多種多様な価値観があり、その多くはそれぞれがそれなりの正論で、唯一絶対の正解など決めようがないのですから、そこは大いに議論をすればよろしい。
ただ、「女の方だなあ、やっぱり狭いなあと思った」という発言はおよそ許容されるものではないでしょう。一応は、これは女性すべてが視野が狭いと言っているのではなく、傾向的・確率的にそうだから、今回のケースもそうなのだなと思った、という言い訳をするのかもしれませんが、少なくとも雇用機会においてはこうした統計的差別は許されないということが法規範として確立しています。雇用機会に限らず、統計的にこうだから個別事案についてもこうだ、という所論は、性別に関しては許されないというのが公序であると考えるべきではなかろうかと思います。
さらに下世話な話になりますが、柳沢厚労相が「機械」発言であれだけ叩かれているという背景がすでにあるわけです。とりあえず厚労相の発言の当否は一応ともかくとするとしても、こうした政治的文脈の中で、しかも元首相という経歴の人がこうした発言をするというのは、少なくともいかにも不用意、軽率というほかないように思います。感覚的には「少なくとも」をかなり上回るわけで、これは厚労相よりかなり「罪が重い」と感じるのは私だけでしょうか?