ベッカー「人的資本」(8)

最終回です。

 昔のように職業人生が短かった時代には、若いときに集中的に教育や訓練などの人的資本投資を行い、そこで身につけた生産能力で、定年まで忙しく働くというパターンでよかったかもしれない。しかし六十歳代まで現役でしっかりと仕事をしようとすれば、若いときに身につけた能力に加え、その後も新しい技術や知識を付加し続けていかねばならない。中年期に長期の研修休暇を取るなど、本格的な再投資も必要となろう。そうした継続的人的資本投資の増加を、企業と個人でどう分担するかが課題となる。
 その際に問題となるのは、年を取ると人的資本投資の誘引が低下するかもしれないことだ。若者ならば、投資をした後に長期にわたって収益を回収できるが、高齢になると、投資後に働ける期間は短くなるからである。
 ただこの点については、技術革新の加速化が逆に高齢ゆえのハンディを小さくすることも考えられる。技術変化(陳腐化)の速度が高まれば、若い人であっても、その時点での技術構造の下での投資収益は、次の技術構造に変わるまでの間の短期に回収しなければならなくなるからである。
(平成19年6月4日付日本経済新聞朝刊「やさしい経済学」から)

たしかに、60歳近くなってからあわてて人的投資をするのはあまり効率的ではないわけで、65歳、70歳まで働き続けることを念頭に、30代、40代にどうするのか、を考えなければならないでしょう。これは職業能力もそうでしょうが、もっと基礎的な、健康管理といった面でもそうでしょう。