ホワイトカラー・エグゼンプションで働きたい人はいるのか

Q.自民党雇用・生活調査会事務局長の後藤田正純衆院議員が「ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)で働きたいという人がいるなら連れてきてもらいたい」と発言していました。本当にWEで働きたい人がいるのでしょうか。

後藤田先生は若かりし日に(今も若いですが)官房長官・副総理などを歴任した大叔父の故後藤田正晴氏の秘書を務められたわけですが、その当時のご自身を振り返ってご想像いただきたいものです。当時の後藤田氏が大叔父から正月に「申し訳ないが、今年は私の政治資金の中から君に払える賃金はこれしかないので、年間360時間以上残業されるとそれ以上は残業代を払えない。だから、君は年間残業360時間以上は働いてはいけない」と申し渡されたとして、はいわかりました、ということになるでしょうか。9月頃に累計残業時間が360時間になってしまったら、その後は毎日定時で仕事を終わって家に帰って寝るのでしょうか。絶対にそんなことはないだろうと思います。政治家の秘書という仕事は、政治家自身の随行のほか、資料の準備や、スケジュール調整、ロジの手配、陳情の処理などなど、相当の工数を雑用にさかれる、およそ「裁量」の豊富な仕事ではないでしょうし、裁量労働制の対象とすることも難しいでしょう。それでも、自らも政治家を志して大物政治家である大叔父の秘書となった以上は、少しでも多く大叔父に接してその薫陶を受け、理念を学び、あるいはどんどん仕事をこなす中で政策の知識を蓄積し、人脈を広げ、地盤を固めたい、そのためならどんな長時間労働も厭わないと考えるのではないでしょうか。実際、後藤田先生はそのように若き日々を送られたのではないかと想像します。
程度の違いはあるでしょうが、企業に勤める人の中にも、自己実現をめざして能力を高めたい、高い評価を得てより高度な仕事に従事したいと考える人はたくさんいます。もちろん、企業ですから当然支払える人件費には上限があり、それは「残業時間の上限」という形で働く人の制約となります。その制約がじゃまだと感じる人も多いはずです。なんなら、私が今からでも後藤田先生の前に伺候させていただいてもけっこうです(笑)。
もちろん「WEで働きたいか」と問われたときに、「思う存分、働きたいだけ働いて(休みたいだけ休んで)、働いた分は全部残業としてつけて残業代をがっぽり貰い、しかも昇進もできればそれにこしたことはない」と思う人は多いだろうと思います。それとどちらがいいか、と問われれば、「WEで働きたいという人などいない」ということにもなるのかもしれません。しかし、そんな非現実的な願望をもとに議論しても仕方ないですし、そんなことは無理だということはたいていの人はわかっているはずです。「残業を規制されて、働きたくても帰れといわれ、思いどおりに仕事ができず、その結果昇進なども思うにまかせなくなりかねない」という働き方と、「思いどおりの仕事ができるか、昇進を果たせるかはわからないにしても、少なくとも働きたいときに帰れといわれて無理やり仕事をできなくされることはない」という働き方のどちらを選ぶのか、という問題なのであり、そこで後者を取る人はそれほど少なくはないものと思います。