川喜多喬編・小池和男監修『女性の人材開発』

女性の人材開発 (キャリア研究選書―シリーズ日本の人材形成)

女性の人材開発 (キャリア研究選書―シリーズ日本の人材形成)

「キャリアデザインマガジン」のために書いた書評を転載します。
 ナカニシヤ出版の「シリーズ日本の人材形成」の2冊目である。以前紹介した小池和男編・監修『プロフェッショナルの人材開発』に続くもので、やはりそれぞれ社会人大学院生の修士論文をベースとした5章からなる。うち4章は著者の勤務先の内部調査が中心で、残る1章も著者が就労経験を持つ専門職種に関する調査と、いずれもインサイダーならではの興味深い内容となっている。
 第1章は、俗に「一般職」と言われるような女性事務員の初期キャリア形成を、貿易事務従事者を対象に調べている。一口に「定型的・補助的」で片付けられがちな初級事務職の仕事にも、一定の非定型的業務が含まれるなど技能レベルの奥行きがあり、それが職場での訓練を通じて形成されていることを明らかにしている。
 第2章はいわゆる「女性秘書」を対象とした珍しい調査である。その職務の特性をふまえて、職務満足度においても技能・キャリア形成においても、秘書の上司たる「ボス」の役割が大きいことを示している。
 第3章は金融機関における女性の係長昇進を取り扱う。金融機関は比較的キャリア形成に関する研究が進んでいる分野であろうが、入社後数年間における経験業務や上司の指導などが男女で異なることが係長昇進に大きく影響する実態を明らかにしている。
 第4章は製薬会社における女性研究者の活用を取り上げる。その就業継続は企業の育成・活用方法に影響されるが、それは企業の経営戦略に密接に関連していることが確認される。
 第5章は看護師の技能形成を取り上げる。患者の容態急変という不確実性の高い状況で発揮される看護師の技能を抽出・層別し、その形成にはOJTが決定的に重要であることが示される。現場がもっとも緊張する場面をピンポイントで取り上げており、迫真の力が感じられる。
 現実の事例調査を中心としているが、かといって単なる事例集ではない。第1章の前に「プロローグ」として編者による改題が付され、編者の意図と各章に通底するものが明らかにされていることで、一貫したメッセージを持つ研究書として完結している。いささか残念なのは内容がやや古くなっていることで、これは論文としての値打ちを下げるものではないだろうが、仕事や働き方が急速に変化していると言われる(本当かどうかは別として)中では、読み物としてはもっと早い紹介が望ましいかもしれない。とはいえ、新しいか古いかにかかわらない発見も多く、そこをこそ読むべきであろう。研究書としてはかなり読みやすい本であり、実務家や、働く女性、あるいは女性に限らず働く人々全般にとって、参考となる本になっているように思う。広くおすすめしたい本である。