労働契約法はどこへ行く

先週火曜日の労働条件分科会で、「今後の労働契約法制について検討すべき具体的論点(1)(素案)」が示されましたので、見ていきたいと思います。

1 労働契約の成立及び変更について
(1) 合意原則
労働契約は、労働者及び使用者の合意によって成立し、又は変更されることを明らかにしてはどうか。

(2) 労働契約と就業規則との関係等
 1) 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とし、無効となった部分は、就業規則で定める基準によることを、労働契約法において規定することとしてはどうか。
 2) 就業規則が法令又は当該事業場について適用される労働協約に反する場合には、その反する部分については無効とすることとしてはどうか。
 3) 合理的な労働条件を定めて労働者に周知させていた就業規則がある場合には、その就業規則に定める労働条件が、労働契約の内容となるものとすることとしてはどうか。
 4) ただし、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働契約の内容を合意した部分(特約)については、3)によるのではなく、その合意によることとしてはどうか。

ごもっともではあるのですが、特約については、就業規則の基準に達しているとか達していないとか明確に判定できないケースもあるのではないでしょうか。たとえば、転勤に関する規定はないが「配置転換を行うことがある」という規定がある就業規則について、「配置転換は行わないが、転勤を行うことがある」という特約をおいた場合、これははたして就業規則で定める基準に達しているのかいないのか、「転勤」がある以上は達していないのだというのが法律の考え方というものかもしれませんが、しかし実務の実態には合っていないような気もします。

(3) 就業規則の変更による労働条件の変更
1) イ 使用者が就業規則を変更し、その就業規則を労働者に周知させていた場合において、就業規則の変更が合理的なものであるときは、労働契約の内容は、変更後の就業規則に定めるところによるものとすることとしてはどうか。
  ロ 上記イの「合理的なもの」であるかどうかの判断要素は、次に掲げる事項その他の就業規則の変更に係る事情としてはどうか。
  i 労働組合との合意その他の労働者との調整の状況(労使の協議の状況)
   ii 労働条件の変更の必要性
  iii 就業規則の変更の内容
  ハ 労働基準法第9章に定める就業規則に関する手続が上記イロの変更ルールとの関係で重要であることを明らかにすることとしてはどうか。
  ニ 就業規則の変更によっては変更されない労働条件を合意していた部分(特約)については、イによるのではなく、その合意によることとしてはどうか。
2) 就業規則を作成していない事業場において、使用者が新たに就業規則を作成し、従前の労働条件に関する基準を変更する場合についても、1)と同様とすることとしてはどうか。

おや、過半数労組の合意による不利益変更の合理性の推定がなくなってしまい、単なる判断の一要素に格下げになってしまいました。これでは、就業規則変更時の合理性判断の予見可能性向上という労働契約法制定の大きな意義のひとつが失われてしまい、労働契約法の株価暴落です。過半数労組の合意があれば、必要性や内容の合理性は一応担保されるだろう、担保されない個別ケースは反証をあげて覆せばよい…というのが基本的な考え方だったのではないかと思うのですが。まあ、こう書かれるだけでも、裁判所は従来以上に過半数労組との合意を重視するようになるでしょうか。