労働契約法はどこへ行く その2

きのうの続きです。それにしても、昨年出された研究会報告が膨大な内容を含んでいたことを思うと、今回のペーパーはずいぶん軽量になったものだという印象があります。もともと、どう考えても来年の通常国会に間に合わせるのは時間的に無理があった感があるうえ、議論の入り口で手間取ったこともあり、限られた期間で労使が合意できるものということになると、この程度のものにとどまるのも現時点では致し方ないことなのでしょう。
まあ、少なくとも労働契約に関するルールをきちんと整備することが必要だということは周知され、最小限のコンパクトなものであってもとにかく法律ができるということは、それ自体相当の意義を有するのではないでしょうか。そもそも、現状では労働契約が「契約」であることすら意識されていないような場面もまだまだ多くありそうですし。
さて、今日は「主な労働条件に関するルール」です。

2 主な労働条件に関するルール
(1) 安全配慮義務
使用者は労働者の生命、身体等を危険から保護するよう配慮しなければならないこととしてはどうか。

安全配慮義務を否定するつもりはもちろんありませんが、もう何度も書きましたが、実務家からみれば安全確保は労使の協力、努力によって達成されるものです。使用者の安全配慮義務を書くのであれば、労働者にも協力義務を規定して双務的なものとするのが、「労働契約法」らしくていいのではないかと思うのですが。

(2) 出向(在籍型出向)
 1) 使用者が労働者に在籍型出向を命じることができる場合において、出向の必要性、対象労働者の選定方法その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、出向命令は無効とすることとしてはどうか。
 2) 使用者が労働者に在籍型出向を命じることができる場合を明らかにすることとしてはどうか。

「できる場合」というのが具体的になにか、というのはこれからの議論かもしれませんが、分社化経営などが広く行われている昨今では単なる人事異動と実質的に異ならないような出向も常時行われており、就業規則などに「業務の必要により、出向を命じることがある」くらいに包括的に定められていれば足りるとすべきだろうと思います。出向させられて賃金を下げられた、というようなケースについては、賃金の部分だけ別途議論すればいいわけで、出向命令をセットにする必要は必ずしもないのではないかと思います。

(3) 転籍(移籍型出向)
使用者は、労働者と合意した場合に、転籍をさせることができることとしてはどうか。

これは個別同意に限るのか、就業規則などによる包括的同意で足りるのかが大問題ですが、転籍出向に関してはさすがに個別同意を要するとするのが常識的ではないでしょうか。転籍出向というのは退職・就職ですから、一方的にこれを行うのは解雇ということでしょう。定年退職は一方的ではないかという考え方もあるかもしれませんが、60歳の下限規制がある定年退職と同一視するのは無理があるでしょう。

(4) 懲戒
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、その懲戒が、労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とすることとしてはどうか。

就業規則などに根拠を求める内容がなくなって、権利濫用の法文化だけになっています。実際にはこの法文がなくても民法の権利の濫用で対応可能なのだろうと思いますが、まあ法律の体裁を整えるためにということであれば、それほど反対する理由もないような。

3 労働契約の終了等
(1) 解雇
労働基準法第18条の2を労働契約法に移行することとしてはどうか。

(2) 整理解雇(経営上の理由による解雇)
経営上の理由による解雇(以下「整理解雇」という。)は、使用者が使用する労働者の数を削減する必要性、整理解雇を回避するために必要な措置の実施状況、整理解雇の対象とする労働者の選定方法の合理性、整理解雇に至るまでの手続その他の事情を総合的に考慮して客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とすることとしてはどうか。

整理解雇については、一応「4要素説」に立っているようです。経営サイドとしては、大阪地裁の4要件説が緩和されるのを歓迎すべきか、東京地裁の4要素説で固定されるのを回避して一段の緩和をめざすべきか、判断に迷っているかもしれません(まあ、なんにせよ法制化は規制強化なので反対でしょうね)。実務的には、普通の人事管理をしている企業であれば法制化されて困ることは当面ないのではないかと思いますが…。