小池和男編・監修『プロフェッショナルの人材開発』

「キャリアデザインマガジン」に書評を書きましたので、ここでもご紹介。そういえばホームページの更新をさぼっているなぁ。

人事系の社会人大学院生も、こういう形で学問的貢献をなすことは十分に可能だということでしょう。
以下転載です。


 書名だけみると、まるでありがちなコンサル本のようだ。実際、amazon.co.jpで「プロフェッショナルの人材開発」を検索してみると、コーチングや転職の指南書のようなものがぞろぞろ引っかかってくる。しかし、この本はそうした世間にありふれた本ではない。
 この本はナカニシヤ出版の「キャリア研究選書」の一冊であり、「シリーズ日本の人材形成」の最初の一冊である。すなわち本格的な研究書である。それだけではない。この本のユニークさは、執筆者の多くが民間企業の社員であり、いわゆる「社会人大学院生」であるところにある。企業人が、専門の大学教員の指導のもとに、自社を対象として調査しているのだから、外部からはとうていうかがい知ることのできないような内部情報、個別かつ詳細の事例が積み上げられている。興味深いものにならないわけがない。
 取り上げられるのは、5つの職種における、プロフェッショナル人材の育成過程である。社内で「プロフェッショナル」と認知されている人たちが、どのような社内でのキャリア、仕事経験を経てきたのかが、本人はもちろん、上司や仕事の関係者、人事部署などからの聞き取りによって検証される。とりあげる業種も職種も、またプロフェッショナル人材としての到達レベルも異なっており、多様である。したがって、当然ながら相違点は多いのだが、しかし共通点もまた多い。この共通点の多さが、聞き取り調査にはつきものの課題であるサンプルの少なさを十分に克服する説得力を与えている。当然ながら、まことに実務家の実感に合った結果が示されていることも、説得力のもう一つの大きな根拠となっている。 
 その共通点を思い切ってごく大雑把に書けば、長期雇用を前提として、最初は入門的な仕事につける。ここで、仕事に必要な基礎知識を獲得させるとともに、本人の適性をみる。その適性をふまえて、さらにアドバンスした仕事につける。高い適性や能力を認められれば、より高度で困難な仕事が与えられる。高度で困難であるほど、本人の能力の伸びも大きい。こうして誰もが認めるプロフェッショナルになっていく。ここではキャリアがそのまま教育となり、人材育成となっていく。
 こうした人材開発は、まさに仕事を通じてのOJTでしか行いえない。もちろん、Off-JTもプロフェッショナルの人材開発に必要であり、また重要でもあろうが、しかし主役たりうることはできないだろう。編者が繰り返し強調しているように、現代のすぐれてプロフェッショナルは組織のなかにあることが多く、その育成には企業という組織がまことに重要である。現場の管理監督者たちが営々と取り組んできたこうした人材育成への取り組みをこれからも続けていけるようにしていくことが、私たち人事労務担当者の、ひいては経営者の大切な役割なのだろう。