いくつになっても働ける社会

こんな報道もありました。

 安倍官房長官が主導する政府の「再チャレンジ推進会議」がまとめた中間報告の素案が明らかになった。やり直しが利く社会にしようと「人生の複線化」をうたい、「70歳まで働ける企業の実現」を提唱している。さらに、最終的には定年制のない「いくつになっても働ける社会」を目指すことを明記した。今月末に中間報告をまとめ、6月の「骨太の方針」に反映させる方針だ。
 具体的な政策提言として、正規・非正規労働者間の格差是正▽個人保証に頼り過ぎない融資推進▽「人生二毛作」と称し、都市で生活してきた人への就農機会の提供▽長期病欠者の復職支援――を列挙。退職を間近に控えた団塊世代や高齢者の能力を活用し、元教員や元研究者を「モノづくり博士」として小学校に派遣する。母子家庭や生活保護世帯の子どもを対象に、元教員や、教職を目指す若者が教える塾をつくることも盛り込んだ。
(平成18年5月8日付朝日新聞夕刊から)

「再チャレンジ」「人生の複線化」と、「70歳まで働ける企業の実現」の何がどう関係するのかまったく意味不明です。定年制の廃止は当然解雇規制の大幅緩和とセットでしょうから、50代後半とかで解雇されて途方に暮れる人を増やすだけに終わりそうです。日々のパンのために低賃金で70歳まで働くことが「再チャレンジ」であり「人生の複線化」だというのなら、定年制を廃止するのもいいかもしれませんが。


それにしても、「いくつになっても働ける」って、90歳でも100歳でもカネがなければ食うために働け、ということなのか知らん。ははあ、それで「正規・非正規労働者間の格差是正」なのか。仕事、役割、期待、人事管理などに応じて決まった賃金には当然格差があるわけで、それを無理に縮小(是正じゃないよ)させるよりは、より高い賃金を得られる(たとえば正規雇用の)人を増やすほうが望ましいのではないかと私はずっと言っていますが、80歳、90歳で働くとなると(よほど恵まれた人以外は)非正規雇用にならざるを得ないわけで、当然賃金も低く、それではまずいということで「格差是正」なのかな。元が悪いからその先もどんどん悪くなる。
都市生活者が就農するのは、自分がそれでいいなら「再チャレンジ」に違いありませんし、病欠者の復職支援もけっこうでしょう。「モノづくり博士」もひとつのアイデアでしょう。あと、母子家庭や生活保護世帯の子どもを対象とした塾をつくるというのは、経済的な理由で塾に通えない子どもに学習機会を与えようということでしょうから、やはりそれはそれでひとつのアイデアかもしれません。少なくとも、今の学校教育で全員が理解できるレベルまで教育水準を落とすというよりは何倍もマシだろうと思います。ただ、補習は基本的には公的教育でユニバーサルに提供される(もちろん自己負担で塾に行くのも自由)のが筋ではないかと思いますし、アドバンスした学習は基本的には奨学金の貸し付けで対応すべきだと思いますが。