NTT、年金減額を求めて提訴

この2月、厚生労働省はNTTの企業年金について退職者分の減額を承認しない決定をしましたが、NTTはこれを不服として、取り消しを求める行政訴訟を起こしたそうです。

 NTTは1日、グループ企業のOB約14万人に対する企業年金の減額を求めた申請を、厚生労働省が認めなかったことを不服として、不承認処分の取り消しを求める行政訴訟東京地裁に起こした。企業年金の制度変更をめぐり、企業が行政を訴えるのは異例。裁判動向は企業の年金制度改革にも影響を与えそうだ。
 NTTは2004年、年金制度をそれまでの確定給付型年金から、国債利回りで受取額が変動する方式に改めた。OBに対しても同制度を適用し、年金額を減額できるよう厚労省に申請した。しかし、減額の認可権を持つ厚労省は今年2月、「NTTは年金を減額しなければならないほど経営は著しく悪化していない」として、削減を認めない「不承認処分」としたため、NTTは決定を不服として提訴した。
 NTTは訴状などで(1)減額申請にあたっては、国が定めた「対象者の3分の2以上の同意」などの要件を満たしている(2)厚労省が「債務超過である場合」などしか経営悪化による減額を認めないのは、法律を厳しく解釈しすぎている――などと主張している。
(平成18年5月1日読売新聞夕刊から)

年金財政が厳しいおりから、厚生労働省企業年金に対して切実な期待を抱いていることはよくわかるのですが、それにしても「債務超過でなければ」というのはいかにも硬直的なように感じます。


もちろん、企業年金には退職金という性格が強く、安易に切り下げることはできないことは当然だろうと思います。とりわけOBの減額はいったん支給した退職金を取り上げることにあたりますので、財産権の尊重という意味も含めて厳しい要件が課されるべきでしょう。就業規則の変更などによる通常の従業員に対する労働条件の不利益変更は合理的な理由があれば可能とされており、企業年金も同様だろうと思いますが、OBに対してはそうはいかない、というのは理解できます。
とはいえ、「債務超過」まで求める必要はないように思います。整理解雇との比較がどれほど妥当かはわかりませんが、いわゆる「整理解雇の4要件」にも「人員整理の経営上の必要性」が含まれています。これはかつては「人員整理しなければ倒産必至、残された最後の手段」といった高度な必要性を求める裁判例もありましたが、近年では裁判所は経営者の判断を尊重する傾向にあり、よりゆるやかに「客観的にみて合理的な経営上の理由があれば足りる」という裁判例がほとんどです。「債務超過でなければ整理解雇は認めない」というところまでは求めていないものと思われます。
整理解雇と企業年金の減額のどちらが大きな不利益かは簡単にはいえないでしょう。たしかに、高齢者は新たに就労して稼得することが困難で、年金が唯一の収入というケースも多々みられるという事情は重視すべきだと思います。しかし、いっぽうで今回の企業年金の減額は十数%程度の限定的なものであり、公的年金を含めた全体での減額率は数%でしょうから、たとえば整理解雇と比較してもそれほど大きな不利益とはいえないのではないでしょうか。
「年金存続のため真にやむを得ない場合」という文言はいくらでも厳しく解釈することはできるわけですが、不利益がかなり大きいとまではいえないことや、受給者の8割以上が同意していることなどを考えると、今回の不承認はいかにも厳しすぎる感があります。あまり硬直的なことを言うと、かえって企業年金を持とうという企業を減らしてしまうことにつながりかねないと思うのですが。