タクシー運転手の賃金

タクシー運転手の低賃金が「規制緩和の弊害」としてたびたび引き合いに出されますが、今国会では格差問題も議論されていることもあってか、きのうの参議院予算委員会でも取り上げられたようです。

谷博之氏(民主) 2004年のタクシー運転手の賃金実態を見ると全労働者の全国平均の6割に満たない。この実態を適切と考えるか。
 北側一雄国土交通相 賃金の状況は厳しいと認識している。
 谷氏 改正道路運送法参院採決の際、人件費を適正水準にすべきだとする付帯決議を決定したが守られていない。
 国交相 個別の申請ごとに不当な競争を引き起こす恐れがないかどうかを厳正に審査している。厚生労働省国交省は合同検査や監査の強化に取り組んでいる。タクシーのあり方、規制緩和後の実態分析を6月をメドに取りまとめる。
(平成18年3月7日付日本経済新聞朝刊から)

参入規制や料金規制を緩和した結果過当競争となり、賃金水準が抑制されていてけしからん、ということでありましょう。まあ、もちろん適度な競争で良好な賃金水準が実現することが望ましいというのはわかります。しかし、だからもう一度競争を制限するのがいいかといえば、そうはいえないだろうと思います。


たしかに、90年代の長きにわたる経済の低迷の間も、タクシーの総車両数は一進一退しながらも微増しています。1990年と2003年を比較すると、台数で約17,000台、従業員数で約13,000人増えています。経済環境を考えれば減少していても不思議ではないにもかかわらず、です。
この当時、リストラや倒産で失業した中高年の再就職が極めて厳しく、こうした人たちの一定数がタクシー運転手に転進したことが、台数増の理由の一つといわれています。経済環境が悪くて利用が落ち込んでいただろうことを考えれば、一人あたりの分配が減少することも当然だったでしょう。
しかし、それでは参入規制や料金規制を維持あるいは強化して賃金水準の確保をはかったとしたら、どうだったでしょうか。たしかに、従来からの運転手さんたちはそのほうがよかったかもしれません。しかし、参入規制をすれば、再就職がなかなかかなわずに運転手に転じた人たちは、運転手の職にもつけず、失業を続けることになったでしょう。あるいは料金の値上げで賃金水準を確保しようとしても、顧客が値上げを受け入れてくれればいいですが、普通に考えて値上げは利用を減らすでしょうから、結局は雇用減か賃金ダウンは避けられないということになります。
きちんと検証してみなければ確定的なことは言えないでしょうが、やはり競争の抑制は国民経済全体ではパフォーマンスを下げるという一般論がここでもあてはまっていそうな気がします。