注意して書いてほしいが…。

ホワイトカラー・エグゼンプション制についての検討が注目されていた厚生労働省の「今後の労働時間制度に関する研究会」の報告書がこの27日に発表され、日経新聞はさっそく28日にその内容を報じました。

 最大の柱の一つは労働時間規制に縛られずに、仕事の内容などに合わせて柔軟に働ける「裁量労働型」の社員の対象を広げることだ。工場労働者などを想定した時間規制が、時間より仕事の質が重視されるホワイトカラーには合わなくなってきたことがある。
 労働基準法は労働時間を週40時間(1日8時間)以内と規定。これを超える残業や休日労働に対し、企業は通常の賃金に上乗せする割増賃金を支払わなければならない。時間外労働の割増賃金は25%以上で、休日労働は35%以上が基準になっている。
 現在、この規制から外れているのは管理職だけだが、管理職の手前の社員にも対象を拡大。最低週1回の休日取得の義務付けは残しつつ、時間規制からは外す。厚労省の調査では企業の6割が課長級を管理職としており新制度では課長代理クラスも対象となりうる。
 規制の対象から外すには本人の同意が必要。さらに本人が仕事量を自分で決められる権限を持つこと、一定水準以上の年収があることという3つの条件を示した。目安となる年収額は「一般の労働者の給与総額を下回らない」水準としており、具体額については労使協議などに委ねる方向だ。
(平成18年1月28日付日本経済新聞朝刊から)

この報告書の内容をどう評価するかというのが大問題ですが、これはとりあえず先送り(笑)して、記事の内容を見てみると、一応は報告書の内容に沿って書かれてはいますが、よく読むと微妙におかしな点があります。


まず、見出しにもなって非常に目を引く「課長代理にも適用」との記載ですが、報告書には「課長代理」ということばはまったく出てきません。これは、日経新聞が、報告書に記載された対象者の具体例である「企業における中堅の幹部候補者で管理監督者の手前に位置するもの」をみて、「多数の企業が課長を管理職としているのだから、その手前といえば課長代理だろう」と推測したものと思われます。
しかし、そもそも報告書を読めば、この研究会がこうした現状(多くの企業が課長以上を管理職として労働時間規制の適用除外者としている)に対して強い問題意識を持っていることは明らかです。むしろ、現行労基法を拡大解釈するような形で適用除外になっている人(たとえば、肩書は課長でも部下のいないスタッフ専門職など)については新裁量労働制を適用するという整理をしようという方向性ではないかと思われます。したがって、この日経のロジックはいささか疑問がなしとはしません。もっとも、要件を満たせば肩書の如何にかかわらず新裁量労働制の対象にはなりうるのですから、課長代理も対象となりうる、というのは間違いではありませんが(というか正しいでしょうが)。
次に、「規制の対象から外すには本人の同意が必要。さらに本人が仕事量を自分で決められる権限を持つこと、一定水準以上の年収があることという3つの条件を示した。」というのは、明らかに記述が足りません。報告書をみると、「勤務態様要件」「本人要件」「健康確保措置」「労使協議・同意」の4つの要件が示されており、本人同意と年収は本人要件の構成要素です。また、「仕事量を自分で決められる権限を持つ」というのは勤務態様要件の一部で、報告書にはほかにも「使用者による出退勤管理を受けない」「労働時間の長短が直接賃金に反映されない」といったことも勤務態様要件の要素として示しています。日経の記事は、こうした構成になっている要件から3つをピックアップして「3つの条件を示した」と書いているわけで、これは誤りとまではいわないまでも明らかに記述不足でしょう。「という3つの条件」ではなく「などの条件」と書けばとりあえず表現としては正しいわけで、なぜ「3つ」と限定したのか不可解です。
なお、「具体額については労使協議などに委ねる方向」というのも、報告書は(具体額に限らず要件全般ですが)「法令にその要件の詳細を定め、すべての企業において一律に対象労働者の範囲を画定するという考え方がある一方」、「具体的な対象労働者の範囲について、労使の実態に即した協議に基づく合意により決定することを認めることも考えられる。」と両論併記しています。ただ、これは日経が独自取材で「併記しているが、行政としてはこちらの方向」という事実をつかんでいるのかもしれません(であれば歓迎すべき方向です)。
まあ、限られた紙面なので、かなりの程度ポイントを絞った紹介をせざるを得ないというのはよくわかるのですが、実際の人事管理に携わる立場からはやはり気になります。