知事命令で大病院医師をへき地に派遣

新聞記事からもうひとつ。

 地方で医師不足が深刻化している問題で、厚生労働省は、公立と公的病院に対し知事がへき地や離島などにある医療機関への支援を命じる権限を与えることを決めた。比較的人員に余裕のある県立、国保、日赤などの大病院に勤務する医師を、医師確保が難しい地域や救急体制が不十分な病院に派遣しやすくするのが狙い。今月下旬からの通常国会に医療法改正案を提出し、07年度からの実施を目指す。
(平成18年1月4日付朝日新聞朝刊から)

古くからある問題ですが、いよいよここまで来ましたか、という感じです。まあ、民間企業であれば辞令一枚で離島勤務になることもあるわけですし、医師は国家資格独占で公定価格ですから公務員的な性格もあるわけで、知事権限での派遣というのはありうる話なのだろうと思います。大切なのはきちんと「人事制度」として整備することでしょう。


まずは、記事にもあるように、大病院の勤務医は大学の医局が事実上人事権を把握していることが多く、病院への命令に加えて医局にも一定の協力を要請できるものとしなければ制度としてワークしないものと思われます。その方法は難しいのですが、医局が協力的な大学には補助金を優遇し、逆の場合は冷遇するとか。卒業生のへき地勤務比率、地方勤務比率などを尺度にすればできなくもないような気がします。しかし、協力的な大学は偏差値が下がるかな。
また、

 ただ、知事に命令権限が与えられても、派遣を求められる病院にとっては、減収になったり、他の医師の勤務が厳しくなったりすることなどから、反発も予想される。また、都道府県立病院の医師がへき地勤務を嫌がり、退職して開業するケースもでている。
(平成18年1月4日付朝日新聞朝刊から)

これも現状のままでは当然そうなるわけで、まずは派遣する医師にはきちんと事前にリーズナブルな任期を設定し、それを確実に守ることが最低限必要でしょう。もちろん、「地域に密着した医師・医療」や、患者や住民と医師との長期的な関係の重要性もあるわけですが、まずは無医状態を解消することのほうが重要なはずです。
派遣がイヤなら開業する、というのはそれでいいのでしょう。仮に「医局が協力的な大学」の偏差値が下がったとして、そういう大学は入りやすく、おそらくは(補助金が多いので)学費も安いでしょうから、受験生としては学力に応じてそうした大学に進み、早期の開業を目指すというビジョンもあっていいと思います。開業医の子弟などにとっては有力な選択肢ではないでしょうか。いっぽうで、あまりそういう学生ばかりになると協力度が低下してしまいますので、長期的には成り立ちそうもない話ですから、へき地への医師の派遣という趣旨とも必ずしも矛盾はしないでしょう。
また、「生活費が安いから」という理由で報酬が引き下げるのではなく、むしろなんらかの手当を付与するといったインセンティブも考える必要があるでしょう(そういう意味では、地方の出先勤務の国家公務員の給与を生計費に応じて引き下げるべきとの意見が有力ですが、これも勤務地の生活環境をふまえた一定の配慮はあってしかるべきと私は思います)。あるいは、任期終了後の勤務先などを配慮するとか、開業資金を援助するとかいったこともインセンティブとして考えていいのかもしれません。
派遣を求められる病院についても、きちんと代替の医師が補充されるしくみが必要でしょう。これは実務的には、1〜2年任期の医師派遣がワークしはじめれば、医局人事の枠内でもやれる話かもしれません。まあ、当面は記事にもあるように「病院に対する補助金の増減などを通じた誘導策」が必要でしょう。ただ、さっきも書いたように、病院よりは人事権を握っている医局に対する誘導が重要だと思います。