岡野雅行・橋本久義『町工場こそ日本の宝』

町工場こそ日本の宝

町工場こそ日本の宝

「痛くない注射針」など、世界トップのプレス加工技術を擁する「町工場」岡野工業社長(ご本人は社長ではなく「代表社員」と称しているそうですが)の岡野雅行氏と、中小企業調査の第一人者で「中小企業は日本のまごころ、世界の宝」の政策研究大学院大学教授橋本久義氏との対談の本。
東京商工リサーチ企業情報」(2005/3/8)によれば、岡野工業は従業員数わずか6人(!)という中小、というか零細に近い企業ですが、過去数年間安定的に4億円の売上と3,000〜5,000万円の税込利益を計上しています。「会社を大きくしようと思わず、自分にしかできないことをやる」というポリシーどおりの経営が実践されているということでしょう。


対談部分は、岡野氏が自らの経験や理念をさまざまな逸話を交えて縦横に語り、聞き手の橋本氏の応対も「町工場」への愛情あふれるもので、たいへん楽しく読み進めることができました。もちろん、岡野氏の体験と成功はきわめて例外的なものではあるでしょう。しかし、「町工場」の二代目として生まれ、親から技術を叩き込まれ、やがて昼は会社の金型の仕事、夜は自分がやりたいプレス機の仕事と寝食惜しんで働き、大企業に洋書の専門書を教えられ、やがては常識的には困難な課題に対して、不可能という先入観を捨てて、こだわりとくふうと、やはり寝食忘れての没頭を通じて世界トップの技術を実現していくというきわめて泥臭いストーリーには、例外的ではあっても強く共感を呼ぶ、「現場の話」独特の説得力があります。
合間に挿入された橋本氏による解説も、こうした「町工場」の現場の努力を「まごころ」「求道的なものづくり精神」として、わが国中小企業の他国にない強みと賞賛しています。これまた、多くの現場を見て、多くの人の話を聞いてきた橋本氏の偽らざる実感なのでしょう。政策的には、こうした中小企業群が形成されたのは通産省による中小企業育成が優れていたからだ、という主張はいささか我田引水的でげっそりする部分もありますが、これまたそれに携わってきた橋本氏の自負ゆえでしょう。短期的な市場原理ばかりではなく、集団的、長期的な関係を重視すべきとの基本ポリシーには、私もまことに賛同するところです。
さて岡野氏といえば、自身の後継者(女婿の縁本氏)の養成(?)もたいへん面白いエピソードとして有名ですが、本書では残念ながらそこまでは語られませんでした。中小企業にとって後継者育成はかなり重要なテーマですが、これは今後の続刊に期待というところでしょうか。