労働契約法制に対する連合の見解

 連合はきょう、「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」報告についての事務局長談話を発表しました。「研究会報告が、労働契約法をつくる必要があるとしていること自体は、連合の認識と一致している。」としながらも、その内容については「研究会は2005年4月に「中間取りまとめ」を公表し、意見を募集した。」「連合は…強い懸念を示し、再検討を求める意見を提出した。」「だが、「最終報告」においては一顧だにされておらず、極めて遺憾である。」としています。まあ、いかに「労働契約法をつくる必要…は、連合の認識と一致」とはいっても、連合のいわゆる「労働契約法」は、研究会で検討されているような一般的な意味での労働契約法とは異なるもののようですから、「一顧だにされない」(実際にはそうでもないと思うのですが)のもやむを得ないところだろうと思います。
それはそれとして、連合が具体的になにを問題としているかというと、こういうことのようです。

…「研究会報告」には問題がある。とりわけ大きな問題点は、[1]労働組合とは本質的に異なる労使委員会に、労働条件の決定・変更の協議や就業規則の変更の合理性判断など重要な機能を担わせようとしている。[2]解雇無効の判決を勝ち取った労働者が職場復帰できなくなる、解雇の金銭解決制度を導入しようしている。[3]雇用継続型契約変更制度の創設は、労働者に対して「労働条件の変更か解雇か」を迫ることになる。[4]ホワイトカラー・イグゼンプションの導入は、労働時間の原則を骨抜きにし、長時間労働を助長しかねない。これらの内容を盛り込んだものならば、労働者のための労働契約法とは到底言えず、連合は容認できない。
http://www.jtuc-rengo.or.jp/new/iken/danwa/2005/20050913.html

[1]のご心配はよくわかるのですが、これはそもそも労組の組織率が低下し、労働条件の決定・変更などについて労使の話し合いが必ずしも十分に行われていないという問題意識に立つもので、何もないよりははるかにマシだということも間違いないように思います。むしろ、簡単ではないにせよ、労使委員会を母体として労組を結成していくというチャンスでもある、という前向きな捉え方もできるのではないかと思うのですが、どうなのでしょうか。
[2]については、以前も何度か書いていますが、果たして解雇無効を勝ち取った労働者がすべて職場復帰を希望しているのかどうかが疑問です。それなりにまとまった金銭で解決して転職先を探したいという人もいると思うのですが。まあ、これは別途個別に交渉すればよいということでしょうか。それはそれとして、現実に金銭解決が行われている事例の中には職場が復帰を歓迎していないケースも多々あると思うのですが、そういう職場の労働者は我慢しろということでしょうか。解雇無効を勝ち取った英雄が歓迎されないわけがないということかもしれませんが。
[3]はちょっと意味不明です。もともと、労働条件の切り下げを提案されて、それを受け入れなかったために解雇される(その後、解雇の合理性を争う)という事態が起きていることから、「労働条件の変更には異議をとどめながら、就労を継続しつつその合理性を争う」ことができるようにすることが雇用継続型契約変更制度の趣旨のはずで、これは連合の見解とは逆に、「労働条件の変更か解雇か」を迫られないようにするためのもののはずなのですが。
[4]の「長時間労働につながりかねない」との懸念はまことにゴモットモで、これは過度の長時間労働を抑制するしくみを設ければいいだけのことでしょう。労働時間管理に縛られずに働きたいという人もそれなりにいると思うのですが。
というわけで、「労働者のための労働契約法とは到底言えず、連合は容認できない。」というわけですが、「労働者のための」の労働者って誰のこと?と私は思ってしまうわけです。労働者だって多様で、いろいろな考え方やニーズがあるわけなので、[1]〜[4]のような選択肢を増やす施策は基本的に望ましいのではないかと思うのですが。もちろん、一部の労働者にとってメリットがあるいっぽうで他の労働者にはデメリットがある、ということになるでしょうが、それはデメリットを軽減する方策を考えればいいわけで、デメリットだけみて全否定することが「労働者のため」かどうかは疑問だと思います。
まあ、見解は続けて「今後、労働契約法については、労働政策審議会で審議されることが予想されるが、「研究会報告」はあくまでも研究者による報告であり、審議会における議論のたたき台ではない。」と書いていますから、これから交渉しようと言っているわけで、であれば今から甘いことは言えない、というのは駆け引きとしては当然かもしれませんが・・・。