連合、郵政職員を守るために法廷闘争に乗り出す

郵政民営化法案の審議が山場を迎えている、というニュースを見ていて思い出したのですが、月末の日経新聞でこんなニュースが小さく報じられていました。

 連合の笹森清会長は29日、郵政民営化法案が「民営化などの見直しはしない」と定めた中央省庁改革基本法に違反しているとして、国を相手取り違憲の確認を求める訴訟を東京地裁に起こした。訴状などによると、内閣に法律を誠実に執行することを義務付けた憲法73条に抵触すると主張している。
(平成17年6月30日付日本経済新聞朝刊から)

これはいったいなんだろう、と思ってそのまま忘れていましたが、連合のホームページをみると、事務局長談話まで発表する気合の入りようです。

 6月29日、笹森連合会長、JPU・全郵政組合員の原告3名は、東京地裁に対し、小泉内閣による郵政民営化関連法案の国会提出が違憲・違法であることの確認等を求める訴えを提起した。連合会長が裁判の原告となるのは、今回が初めてである。
…連合は、郵政事業に働く者の立場、そして彼らを守るべき労働組合ナショナルセンターの立場から…労働事件として提訴に踏み切ったものである。
 郵政事業に働く職員は、国民の期待に応えるべく、公社化以降4年間の中期経営目標に基づき郵政事業の改革に懸命の努力をしている最中である。こうした職員の努力を全く無視して今回の法案が提出されたことに対し、多くの職員が疑念と不安を抱いていることに政府は何ら説明していない。今回の法案は、働く者の権利を侵害し、公共サービスを担う使命感と責任をもって働く人たちの心を踏みにじるものである。
…この訴えは、郵政事業に働く者の権利侵害を問うためだけのものではない。…郵政公社化によって民営化は行わないと宣言した中央省庁等改革基本法に違反し、法律を誠実に執行する義務を定めた憲法(73条1項)にも違反している。こうした基本問題を問うためのものでもある。

もともと「この法律は改正しない」という法律というのがおかしな代物ですし、こんなことを言い出したら法改正は一切できなくなるのではないか、と言いたくなりますが、まあこれは郵政民営化で職員が不利益を被ることに対する抵抗の方便なのでしょうから、そんなものなのでしょう。
それはそれとして、「連合会長が裁判の原告となるのは、今回が初めて」なのだそうです。それほど重大だといいたいのでしょうが、それにしてはずいぶん個別組織(JPUと全郵政ですから、産別というより単組でしょう)の利害に深入りした内容で、「全国唯一のナショナルセンター」を標榜する(のだったと思いますが)連合の会長にあまりにもふさわしすぎる内容で涙が出てきます。これまで、民間企業ではかなり厳しいリストラが展開されてきて、労働者・組合員にも大きな影響があったわけですが、これらに対しては「連合会長が原告となる」こともなく、郵政民営化で「今回が初めて」原告になるのはなぜなのでしょうか。まさか、「民間には方便がなかったから」ということではないと思いますが・・・。
ほかにも、世間ではほとんど知られていないのではないかと思いますが、実は連合は「矢部町業務委託事件」(連合によれば「矢部町違法業務委託・労働法違反事件」)という個別訴訟を「全面支援」しています(さすがに連合会長は原告にはなっていませんが)。これも、連合として問題視する業務委託や請負の象徴的事例だという理屈ではあるのでしょうが、それにしても増加を続ける多数の労働事件(その中には矢部町業務委託事件よりはるかに深刻なものも多いでしょう)のなかで、この事件だけ連合が支援するということは外部からみるとまことに理解しがたいものがあります。
もちろん、連帯しての弱者支援は労組の本来的機能でしょうし、すべてきちんと機関決定し、意思統一して取り組んでいるのだろうと承知はしていますが、しかし外からみると郵政、自治労といった「声の大きい」一部組織の利益のための行動に見えるということも否定できないのではないでしょうか。