若者の「逆国際化」

今朝の日経新聞によると、海外勤務を希望する若者が減っているのだとか。

社会経済生産性本部が今春、新入社員を対象に実施したアンケート調査(回答千八百四十八人)によると、「海外または外国人が多い職場で働きたい」と答えた人は全体の三五%と前年比で一気に一二ポイントも低下した。
 リクルートの就職人気ランキングでも、海外勤務志望の学生が目指す企業の代表格だった大手商社が六年前から上位二十社から姿を消している。
 「国内の証券会社でじっくりと自分の実力を磨きたい」。今春、大学を卒業したA氏(24)は高い競争率をくぐって数人だけが得た大手外資系証券の採用内定を断り、今年四月、大和証券SMBCに入社した。「別に海外で働くことが最終目標ではないから」と言う。
 敵対的買収への防衛策を巡る議論では外資警戒論も浮上した。次代を担う若者の国際志向の低下が続くようなら、「島国ニッポン」からの脱却も危うい。
(平成17年6月10日付日本経済新聞朝刊から)

直接は書いてありませんが、「若者が内向きになるのはけしからん」と云わんばかりの書き方ではありますが・・・。


これは案外、合理的な判断なのかもしれません。とりあえず2つくらいの理由が考え付きます。
ひとつは記事にもあるように、効率的に専門能力を向上させようと思った場合に、海外に行くことがかえって非効率になる可能性があることです。海外生活は単純にコストもかかりますし、言葉の問題などを考えるといろいろと非効率があります。もちろん、海外でなければ獲得できない能力というのもあるわけですが、国内で獲得できる能力をわざわざ海外に出かけていって獲得する必要もありません。そして、なんだかんだ云っても日本は世界でも最高水準の技術やノウハウを持つ分野がたくさんあるわけで、であればなにも海外で余計なストレスを受ける必要もないでしょう。まあ、記事にあるような証券取引や金融分野は日本は遅れていると云われていて、これが該当するかどうか疑わしいのですが、それでも東京のマーケットに特化した分野ならば日本がもっとも有利かもしれません。
もうひとつは、企業のなかで海外勤務が必ずしも有利なキャリアとは限らなくなってきた、ということが考えられるかもしれません。かつては海外勤務は限られた人のものであり、現地に行けばかなりの裁量度を持って行動できたでしょうし、キャリアとしてもそれなりに「将来の約束されたキャリア」と考えてよかったのでしょう。近年、従来必ずしも主流とされてこなかったキャリアから「国際派社長」が増えてきているのも、そう考えると実は当然なのかもしれません。ところが、現在のように国際化が進み、海外勤務があたりまえになってくると、戦略的意思決定は本社に握られたまま、海外で本社と現地の間に入ってしんどい思いをして、しかも必ずしも将来が約束されるとも限らない(海外勤務者が多くなれば当然そうなります)という状態になりつつあるのではないでしょうか。だとすると、キャリアとしての海外勤務の人気が落ちるのは自然だということになるでしょう。
結局のところ、海外で働きたい人が100%でなければならない理由はありそうもないわけで、それなりに適度な比率というのがあるのでしょう。35%がいいのかどうかもわかりませんが、少なくとも合理的な判断の結果そうなっているという部分もあるのであれば、一概に「今の若者はけしからん」的な云われ方をされる理由もないでしょう。