「資本の論理」を問う

もうひとつ日曜日の記事から。気鋭の労働経済学者、大阪大学教授の大竹文雄氏による「経済論壇から」です。

 ニッポン放送が企業防衛策としてとった新株予約権の発行を認めなかった東京地裁・東京高裁の判断について、商法学者と資本市場関係者の間で意見が激しく対立するなど、ライブドアとフジテレビの攻防は論壇でも大きな関心を集めた。
 「株式会社の経営者は株主が選ぶべきものであって、経営者が株主を選ぶのではないのだから、司法の判断は当然」と楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元氏(論座5月号)はいう。
 これに対し、複数の著名な商法学者は、ニッポン放送を支持する立場から裁判所に意見書を提出した。早稲田大学教授の上村達男氏(世界5月号)は、出現してはならない筋悪の乗っ取り屋に対しては「新株予約権をもって事後的に緊急避難的に対抗することはありうるのであり、本件の場合にはこれを許さなければ会社法理論は無法者の保護理論と化してしまう」とその主張の根拠を説明している。
 上村氏によれば、時間外取引ニッポン放送株を大量取得したこと、100対1の株式分割を繰り返すことで成長してきたことの違法性から、ライブドアは明らかに筋悪の株主であるという。その上で、同氏は今回の混乱の原因は「証券市場を使わない企業社会から、証券市場を使いこなす本格的な公開株式会社の時代に急速に転換してきた」にもかかわらず、市場の規律が追いついていないことから生じている、との見解を示している。
(平成17年5月29日付日本経済新聞朝刊から)

この問題にはそれなりに関心を持ってウォッチしていたのですが、これは知りませんでした。


なにを知らなかったかというと、「複数の著名な商法学者は、ニッポン放送を支持する立場から裁判所に意見書を提出した。」というくだりです。マスコミの報道などは全般的にライブドアに好意的で、裁判所の判決も「当然」という論調でしたが、そうした報道はこうした反対意見を黙殺していたということでしょうか。
しかし、大竹氏のようなバリバリの経済学者が資本市場関係者に批判的だ、ということは考えさせられるものがあります。氏の次の指摘は核心に迫っているように思われます。

 JR西日本関西電力日本航空といった日本の代表的な企業で事故やトラブルが相次いでいる。背景には、規制緩和に伴う利益第一主義が安全管理を軽視させているためだという考え方がある。確かに、短期的な利益を極大化しようとする経営者が安全を軽視し、職場環境を悪化させることはあるだろう。それゆえ、私たちが利益第一主義を経営者に強いる「資本の論理」を諸悪の根源ととらえ、それを敵視するのは自然な感情なのかもしれない。敵対的買収に対し、私たちが持つ反感も実は同根なのではないか。乗っ取り屋が目指すのは短期的な利益の極大化そのものだからである。
(平成17年5月29日付日本経済新聞朝刊から)