少子化対策で企業に目標値

今朝の日経新聞は、一面トップで「少子化対策へ官民協議」と報じました。

 政府は官民共同で少子化対策を推進するため、関係閣僚と日本経団連など経済界による協議を四月中にも開催する。企業が作成する子育て支援の行動計画について、男性の育児休業取得や、いったん離職した女性の再就職で年限を区切った具体的目標値を盛り込むよう強く要請。企業側からの要望も取り入れることで、実効性のある子育て支援に向けた官民連携体制を整える。
(平成17年3月30日付日本経済新聞朝刊から)

男性の育児休業も女性の再就職もけっこうな話なので、おおいに進めればいいということには賛成です。ただ、それについて「企業に数値目標を設定すること」を「強く要請」というのはいかがなもんなんでしょうか。
 
そもそも、育児休業というのは本人が希望して取得するものであって、企業が取得させるものではないはずです。当然、休みたくないなら休まないのも自由でしょう。そういうものについて、企業に対して取得率の目標を設定させるということ自体が筋違いです。
もっとも、行政にも理屈がないわけではありません。政府は男性の育休取得率として「10%」を政策目標としているようで、その根拠は、7%の男性が「育児休業をぜひ取得したい」と回答したという調査結果なのだそうです。で、取りたい人が7%もいるのに実際に取れているのが0.4%というのは、企業が男性に育休を取らせないような人事管理をしているに違いない、というのが行政の理屈です。
しかし、この7%という数字をまともに受け止めるのはいかにも危なっかしい感じがします。この「ぜひ取得したい」の中には、「ぜひ取得したいけれど、働いているときと同じ賃金がもらえないから取得できない」とか、「ぜひ取得したいけれど、昇進昇格で同期に遅れをとってしまうかもしれないから取得できない」というのが相当数含まれているのではないでしょうか。あるいは、本音では取得したくはないのだけれど、「取得したいけれど企業、職場のせいで取得できない」と回答したほうがスマートなのではないか、という考えで「取得したい」と回答している人も多いのではないでしょうか。要するに、口ではぜひ取りたいといいながら、本音ではできれば取りたくないという男性が相当いるのではないでしょうか。
となると、企業に数値目標を強要(強く要請)すれば、結局は休みたくない人を無理やり休ませるということになってしまうでしょう。もちろん、無理やりに休ませることが大事なのだ、という考え方もあるでしょうが、であれば、企業に目標を設定させるなどという逃げ腰のやり方ではなく、男性全員に育休を義務づける法制化といったことを行政の責任で実施すべきです。もちろん、それにあたっては、育休義務化によるコストアップ分は賃金をカットすることも同時に法制化すべきでしょう。もっとも、本当にそんなことをやったら、わが国の現状では育休取得がいやなばかりに子作りを控える男性が相当数出てきて、かえって少子化を促進しかねないという心配すらありますが・・・。
女性の再雇用については、そもそもどういう指標で管理するのかが問題です。それこそ3年後、6年後に再雇用される人も多いはずで、これをどうやって指標化して管理するのか、実務的にはかなりの無理がありそうです。育休取得して勤続する人でも、形式的にいったん退職してもらえば再雇用としてカウントできてしまうという問題もあります。
あるいは、いかに再雇用制度を充実しても、たとえば通勤時間の問題など、企業としてはどうにもならないこともあります。そう考えると、再雇用制度の導入促進はおおいにけっこうなことだと思いますが、企業に数値目標を設定させるというのはいかにも行き過ぎでしょう。
誤解のないように申し上げておきますが、私は男性の育児休業取得も女性の再雇用もおおいに促進すべきだと考えています。ただ、だから企業に数値目標を設定させるという方法論は明らかに誤りだと思います。
財政問題の制約のある行政としては、企業になるべく多くのものを期待したいとの考えはわかりますが、公的保育の大幅拡充につながる抜本的改革など、行政がやるべきことをやらずに企業にあれこれやらせても、その効果はしょせん限られたものにしかならないのではないでしょうか。