新聞各紙のニッポン放送狂騒曲(2)

まずは昨日のフォローです。
今日も読売、朝日、日経、東京の4紙がこの問題の社説を掲載しました。うち、朝日、日経、東京の論調はほとんど同じで、要するに、ニッポン放送の増資は株主軽視でけしからんが、ライブドアのやり口にも問題があるから、司法での決着とともに制度の整備が必要だ、という趣旨です(だいたい、です:ニュアンスはそれなりに違います)。読売は若干観点が違うようです。
 

 原則に照らせば、ニッポン放送が大量の新株引受権を渡したことには違和感がある。株数が急に増えると、一株あたりの価値は下がり、それまでの株主の発言権は一気に小さくなるからだ。
 この手が通用するなら、外部から敵対的な買収をいくら仕掛けられても経営者は怖くない。その半面で、株主はないがしろにされ、経営から緊張感がうせてしまう。社外取締役も加わった取締役会で決めたにしても、疑問は残る。
 だが、すっきり否定もしきれないのは、証券取引所時間外取引を利用して大量の株を入手したライブドアのやり方も、首をかしげさせるものだからだ。
(平成17年2月25日付朝日新聞「社説」)
 
 TOBに応じるかどうかはニッポン放送の株主の判断に委ねられている。ところが、この増資を前提にすると、TOBに応じなかった株主は持ち分を半分以下に希薄化され、株価の下落などの損失を被ることがほぼ確実なため、TOBに応じるか市場で売るかを迫られる。株価が下がることを承知で買う投資家は考えにくく、事実上TOBに応じる以外の選択を株主から奪うことになる。

 もっとも、ニッポン放送、フジテレビはライブドアによる訴訟を予想していたようだ。立会外取引を使ったライブドアによる大量の株式取得は法の盲点を突いたもので、ライブドアの株主としての資格にも問題がある。
(平成17年2月25日付日本経済新聞「社説」)
 
 今回の方針発表で、ニッポン放送の株価は早くも大幅に下落してしまった。現在の発行済み株式数の一・四倍もの大量の新株が実際に発行されれば、一株当たりの株式価値は大きく損なわれてしまう。
 たとえ今回の措置が企業価値を維持するものだとしても、自分の手元にある株式の価値が減ってしまうのでは、一般株主にとっては、やはり承服しがたいのではないか。
 買収攻勢を仕掛けたライブドア東京証券取引所時間外取引という「裏口」を使って、株を大量取得した手法も一般株主を無視したものだった。
(平成17年2月25日付日本経済新聞「社説」)

朝日と東京が経営陣の経営権維持を非難するにとどまっているのに対し、日経がフジテレビのTOBに言及したのはさすがといえましょう。
これらと異なり、読売の社説は「ニッポン放送 外資間接支配の危険を取り除け」というもので、

 電波の性格と、放送局の公共性を考えれば、外資規制の実施は当然だ。
 だが、電波法には重大な欠陥がある。外国資本が直接、放送局に出資することは規制しているが、外国資本の支配下にある日本企業の出資に関する規制が曖昧(あいまい)なのだ。法改正を急ぎ、外資の間接支配を防がねばならない。

 裁判の行方を見守りたいが、今回の買い占めは、単に株式取引にとどまらず、言論・表現の自由という問題も含んでいることを、忘れてはならない。

外資規制はグローバル・スタンダードであり、当然のことですし、間接支配を規制する法改正が必要だというのも同感です。ただ、外資規制の必要性は基本的に「災害時に的確な情報を発信するなど、重要な公共的使命を負っている」からであって、ここで「言論・表現の自由」を持ち出すのは若干議論を拡大しすぎの感はありますが。
 
さて、今回の事態をどう考えるかについては、私は会社法や株式市場には詳しくないので、あまり自信を持って意見を述べることはできません。ただ、労務管理をやっている立場からみると、株主の利益を重視すべきだとの議論はもちろんわかるのですが、それも株主によりけりではないかと思います。
つまり、村上ファンドのように短期的な配当益や値上がり益を得ようとする株主と、創業時出資者や、それなりに長期にわたって株式を保有し、経営にもコミットしてきた株主とでは、おのずと株主利益の保護についても考え方が違ってもいいのではないかと思うのです。ライブドアが本当に今後ニッポン放送の経営にコミットしていこうとしているのか、単なるグリーンメーラーなのかはわかりませんが、少なくとも長期にわたって株式を保有してきてはいないことは事実でしょう。
であれば、フジテレビは5950円でのTOBを提示しているわけですから、ライブドア村上ファンドなどの短期的な株主については、これで株主利益は相応に守られていると考えてよいのではないかと思います(現在のニッポン放送の株価はフジテレビのTOB価格をかなり上回っていますが、これはライブドアの買い集めにともなう思惑で上がっているわけですから、現在の価格を下回っているから保護に欠けるとはいえないでしょう。フジテレビがTOB価格を引き上げないのも、フジテレビとしてはライブドアグリーンメーラーであり、TOB価格引き上げはグリーンメーラーに屈することになるという考え方があるからだろうと思います)。
いっぽうで、ニッポン放送ライブドアに支配された場合、フジテレビは自身への波及を恐れてニッポン放送を切り離す可能性は高いように思います(先日のエントリで紹介したフジテレビ労組の反応をみれば、それが経営上合理的な判断だろうと思います)。そうなったときにはニッポン放送企業価値が大きく損なわれることは間違いありません。
そう考えると、ニッポン放送の一般(?)株主としては、ライブドアの買い集めによる投機的利益を得ることは断念せざるを得なくはなるものの、少なくともフジテレビのTOBに応じることで損失はない(多くの株主の取得価格はTOB価格より低いものと思われます。騒ぎが始まってから飛びついた超短期の投機的株主は、この程度のリスクは当然織り込み済でしょうから考慮しません)ということで納得してもらうしかないのではないでしょうか。