山田昌弘「パラサイト社会のゆくえ」

パラサイト社会のゆくえ (ちくま新書)

パラサイト社会のゆくえ (ちくま新書)

山田氏の読売の人生相談はイマイチですが、この本は天才的だなぁと思います。実にうまいエッセイ。へぇ、というデータを示し、なるほど、という解釈を述べ、いわれてみれば確かに、と納得させる、この呼吸がなんとも巧妙で、私もこういうエッセイを書きたいと思わされます(ま、私ごとき凡才には無理というものでしょうが・・・)。
もちろん、内容もたいへん興味深い。
こういう書名、同じちくま新書ですが、とくに「パラサイト・シングルの時代」の続編、というわけでもないようです。パラサイト・シングルだけではなく、年金からペット、年賀状、お年玉、できちゃった結婚などなど、多彩な話題が提示されます。こうした事象の変化を社会学的にみるとどうなるのか、ということが親しみやすく語られています。
そして、これらを一貫するモチーフとして、「1998年転機説」を提示しています。玄田有史氏による「1997年に日本の労働市場が転換した」との主張が引き合いに出されていますが、労働市場の転換が家族・社会の転機と関係あるのかどうか、ここでは述べられていませんが興味深いところで、今後さらに掘り下げてほしいところです。
なお、ほとんど同時に同じ筑摩書房から山田氏の「希望格差社会」が出ていますが、これも基本的には同じモチーフに基づいています。さらに本格的、構造的な分析が展開され、問題提起がなされています。この本を読んで関心を持った人が、「希望格差〜」に読み進む、ということが想定されているのかもしれません。そういう意味では、家族社会学の入門書、導入としてもなかなか優れた本といえそうです。