かみあわない春闘論戦

きのう、経団連が「経営労働政策委員会報告」を発表したので読んでみました。
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2004/095.html
連合は、さっそくこれに噛みついています。
http://www.jtuc-rengo.or.jp/new/iken/danwa/2004/20041214kenkai.html
交渉ごとですから、殴られたらすぐ殴り返さなければダメですし、最初から甘いことを言っていたのでは交渉にならないわけですが、それにしても議論がかみあわない。
まあ、しょせんイデオロギーが違うんですからかみあわないのも当然で、利益拡大や自社業績重視がけしからんと言われても、市場経済の中で活動している経団連にしてみれば余計なお世話でしょう。このあたりはまあ致し方ない。
とはいえ、妙に経団連の報告書の内容とかみあわない噛みつき方が目立ちます。噛みつくためだけに噛みつくのでは、単なる難癖や言いがかりと変わりません。
たとえば、

賃金改定は、生活・経済・経営状況などを踏まえて交渉すべきもので、ベア不要論として一般化させることは無意味である。われわれは、生活の安定的な向上のために、成長成果の配分としてベア要求をするのであり、この姿勢を変えるつもりはない。報酬体系のベースは月例賃金であり、その改善を重視することは当然である。「成果配分は一時金だけで行えばいい」という考え方には賛成できない。

なんか、これって経団連の報告書に書いてあることと意味としては同じだと思うんですが?(ま、さすがに経団連は「生活」を最初に明示してはいないにしても)。たとえば一時金にしても経団連は「もっぱら」「中心に」と書いていて、「だけ」とは書いてありません。ま、連合は行間をそう読んだということかもしれませんが。個別労組の賃上げ要求や月例賃金改善も経団連は否定していませんし、なにをそう噛みついてるんだという感じです。
それから、

「国民経済レベルでは賃上げの余地はない」という主張をしているが、マクロ経済データは、「物価を上昇させずに実質賃金を引き上げることが可能」であることを示している。

これもそうで、経団連の報告書をみると、わが国が高コスト構造だから賃上げの余地がない、と書いてあって、物価が上がっているからということは書いてありません。たしかに以前は経団連(というか、当時の日経連)はそう言っていたこともありますが、こんなところで昔のことを持ち出して噛みつくというのもヘンなものですよね。

若年雇用問題については、、新卒や在学中の対策だけではなく、若年者の雇用が過去10年程度見送られてきたことへの企業責任が最大の問題である。

企業責任という妙な用語の意味が不明ですが、大筋ではまことに同感です。ですから、経団連の報告書でも、企業が若年採用を手控えたことが最大の原因であるということが書いてありますし、「企業では、まずは若年者に対する有意義な雇用機会を増やすとともに、受け入れ体制を整える必要がある」とまで書いてあります。こうなると、かみあわない以前に、連合は本当に報告書を読んで噛みついているのか、という問題です。
もう一つ、これは内容云々以前に笑えるのですが、この声明の6.と7.で報告書の労働法制に関する記述をこき下ろしているのですが、なんとこの二つはまったくの同文です(笑)。
まあ、単に間違えただけだと思いますが(間違いならすぐに直すでしょう。直されないうちに見ておきましょう。大急ぎでhttp://www.jtuc-rengo.or.jp/new/iken/danwa/2004/20041214kenkai.htmlにGO!)、ひょっとしたら一度では言い足りず、繰り返して強調したのかもしれません(まさかね)。まあ、かなりアタマに血が上っているなという感じです。
なお、忘れずに言っておきますがいいことも言っています。たとえば、

「潜在国民負担率を50%にとどめる」としているが、経済成長と国民負担率との関連性について学問的にも何ら実証されていないにもかかわらず、なぜ50%なのか、まったく説明がなく、説得性がない。

これはまさにそのとおり。ただ、だから給付の削減は必要ないとか、こうしたキャップは不要だとかいうことにはならないのは痛いところですが。
経営労働政策委員会報告と日を同じくして発表された厚生労働省の2004年労働組合基礎調査の結果によれば、労組組織率は29年連続低下して過去最低とか。労組の危機感はよくわかりますが、単に経営者に対して批判のための批判を繰り返すだけでは進歩はなさそうです。