派遣会社の資産規制

まず先週金曜日の記事から。

 厚生労働省は二十六日、派遣企業の許可制度を見直すことを決めた。資産から負債を引いた額が二千万円以上ないと、派遣業を許可しないようにする。これまでは一千万円以上あれば参入できた。派遣労働者を安易に解雇する例が多いため、規制を強化する。通達を改正し、原則二〇〇九年十月から実施する。
 同日開催した労働政策審議会厚労相の諮問機関)の部会に見直し案を提示、了承された。
 新制度では、資産から負債を引いた額が二千万円以上あり、しかも千五百万円以上の現金・預金を持っていることを派遣業を手がける際の条件にする。派遣企業の社員で、派遣労働者を管理する責任者が受ける講習の頻度を三年に一回に増やす。
(平成21年3月27日付日本経済新聞朝刊から)

27日のエントリで取り上げた記事でも取り上げられていましたが、少し詳しくなっています。要するに、派遣会社も経営が苦しくなってくるとやむにやまれず?解雇ということになるだろうから、そこそこに余裕のある経営をしている業者でなければ派遣業は許しませんよ、ということでしょう。具体的には、それなりの財務状況で、手元資金もある程度確保できていること、ということのようです。まあ、たしかにこれは重要なポイントなのかもしれません。
もっとも、新規許可のときには効き目はありそうですが、許可の更新のときにどうか、というのは多少の疑問もあります。許可がおりた時点では良好な財務状況であったとしても、その後業績不振で経営が苦しくなり…というのはいかにもありそうです。現在、許可の更新は初回が3年、2回め以降が5年となっていますが、この頻度でチェックが十分かどうかは悩ましいものがあります。かといって、随時チェックするというわけにもいかないでしょうし…。また、現にこうした条件に合致せず、許可を更新しなかった場合、その派遣業者から派遣されている派遣労働者はどうなってしまうのでしょうか?まあ、これは現状の規制でも同じようなものではありますが、加減をうまくやらないと、解雇をさせないための規制がかえって解雇を増やしてしまった…ということにもなりかねないと、これは心配しすぎでしょうか?

年次有給休暇の買い上げ

次は土曜日の朝刊です。記事の本筋とは関係ないネタなのですが…

 欧州の自動車業界でワークシェアリング(仕事の分かち合い)の動きが加速してきた。各社は昇給停止や時短勤務拡大に踏み切る一方、現状の雇用は極力維持する方針。スウェーデンボルボ・カーは全社員の昇給と賞与の支給を停止、仏ルノーは休日の買い上げ制度の利用「自粛」を求める。世界的に自動車市場が冷え込むなかで、雇用維持とコスト削減を両立させる苦肉の策が続きそうだ。

 仏ルノーは今月、労使で一年間限定の「危機対応契約」を結んだ。同社は社員の未消化の休日を買い取る制度を導入しているが、幹部や管理職に対し同制度の利用の一部自粛を求める。労働者の権利が厳格に守られている仏では異例の措置だ。
 ルノーは仏政府からの低利融資の見返りとして国内雇用の維持を強く求められており、従業員の大規模な削減が難しい。このため、休日買い上げ制度の一部返上と定昇見送りによるコスト削減で対応する。
(平成21年3月28日付日本経済新聞朝刊から)

私が反応したのは、仏ルノーが「社員の未消化の休日を買い取る制度を導入している」という部分です。だいぶ以前になりますが、米ヒューレット・パッカードに年休買い取り制度があるという記事があり、そのときに同様の疑問を感じて(http://www.roumuya.net/zakkan/zakkan13/nenkan.html)米国在勤の友人に聞いてみたところ、「欧州はともかく、米国では普通にあるよ」とのことでしたが、欧州でもそうなのでしょうか?
わが国の年次有給休暇の取得率が低い(これは事実ですし、改善の必要がありますが)という話になると、必ず「欧米では完全取得が当たり前なので付与日数の統計しかなく、取得日数や取得率のデータはない」というような話を聞かされます。しかし、買い上げ制度があるということは、現実には取得されずに買い上げられる年次有給休暇もかなりあるのではないでしょうか?で、「幹部や管理職に対し同制度の利用の一部自粛」というのは、要するに余った年次有給休暇(の一部)を捨てましょう、ということでしょう。この書き方をみると、幹部・管理職以外でも相当の年次有給休暇が買い上げられている(例外的なものではない)ことが伺われます。実態はどうなのでしょうか?
わが国では、年次有給休暇の買い上げについては、結果的に時効にかかってしまう分を買い上げるのはいいけれど、「買い上げるから取得するな」というのは(法定分は)ダメ、ということになっていたと思います。まあ、たしかにわが国では、年次有給休暇の買い取り制度を導入したら、ますます取得率が下がりそうだというのが偽らざる実務実感(根拠なし)ですから、取得を増やそうという政策的意図があるのであれば買い取り制度は奨励できないでしょう。とはいえ、しかしこうした環境の違いを無視して「日本の取得率は低い」とばかりいうのも、いささか平衡を欠くような気がします。

同感

最後は今日の朝刊の「月曜経済観測」(インタビュー記事の連載コラム)です。第一生命会長の森田富治郎氏が登場していろいろ言っておられますが、この部分に注目しました。

――では日本が成長力を取り戻すにはどんな少子化対策が必要ですか。
 「やはり減税や給付金で子どもを持つ経済的な動機を強めるのが最も効果的。案外見過ごされているのが都市・住宅政策や地方の活性化だ。多くのサラリーマンが狭い住宅から長時間かけて都心の職場に通う毎日では、子どもをつくる余裕を失う。民間企業によるワークライフバランス(仕事と生活の調和)の取り組みも、効果が減殺されかねない」
(平成21年3月29日付日本経済新聞朝刊から)

ほかの部分はともかく、ここはまったく同感です。少子化対策ワークライフバランス厚生労働省がやるものだから、労働時間の話ばかりが取り上げられて、通勤時間が往々にして見過ごされます。もとい、見過ごしているとまでは申しませんが、しかし在宅勤務やサテライト・オフィスといった限られた施策しか出てきません。
現実には、東京都心で勤務する一般的なサラリーパーソンが「子どもが小さいうちは環境のいい郊外で」と考えれば、片道60〜90分(さらにはそれ以上)の通勤は避けがたいでしょう。となると、そういう人に時間外労働の免除とか勤務時間の短縮とか言ってもほとんど意味はないでしょうし、また、「せっかく長時間を通勤に費やしているのだから、なるべく職場に長く滞在して残業代をたくさん稼ごう」というのが合理的な行動になってしまいかねません。
まあ、厚生労働省としてみれば自分たちにはどうしようもない分野なのでしょうし、だからといって労働時間の短縮などをやらなくていいというわけにもいかない、というのはよくわかるのですが、それにしても、少子化対策ワークライフバランスを旗印に、さほど効果が大きくないのに企業への影響はけっこう大きい政策を当たり前のような顔をして押し付けるのは勘弁願いたいものです。