熊谷謙一『アジアの労使関係と労働法』

国際労働財団(JILAF)の熊谷謙一さんから、ご著書『アジアの労使関係と労働法』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

著者の熊谷氏は連合国際局長を務め、その後JILAFに転じて副事務局長を務められた、知る人ぞ知る(と言ったら失礼か)労働界きっての国際派です。この本は2013年から2014年にかけて「中央労働時報」誌に連載された記事を最新にアップデートしてとりまとめたもので、アジア15か国の労使関係事情が国別に紹介されています。
アジア地域での労使関係はインドでの流血の労使紛争などに典型的に見られるように近年グローバル企業にとっては最大の関心事のひとつとなっています。、特に東南アジアでは、開発独裁、内戦、軍事政権などこれまでの事情は異なれ、経座成長が著しい中で民主化が進み、それまでは強く制限されてきた労働運動も自由化が進みました。そうした中で労働運動の高揚、労使紛争の発生は予測されたことではありますが、しかし従来にない課題としてクローズアップされたわけです。また、中国はもちろん、ベトナムやモンゴルなどの社会主義国では労働組合の制度や社会的意義が大きく異なるわけで、とりわけ日本企業の進出が少ないモンゴルなどについてはなかなか正確・詳細な情報も得られにくかったのではないかと思われます。
こうした中で、本書はアジア諸国の労使関係の現状をヴィヴィッドに紹介するだけではなく、その背後にある労使関係法についてもていねいに説明されており、企業だけではなく、労働運動の中でもアジア各国と関わる人が増えているこんにち、まことに時宜を得た、有意義なものであるといえるでしょう。内容が参考となるだけではなく、文章も読みやすく、途中に挿入されたコラムも含めて興味深いエピソードも豊富に含まれています。アジア諸国との関係の有無を問わず、幅広い労使関係者に読まれてほしい本だと思います。