鑑賞ガイド

あらかじめお断りしておきますが本日はネタです(笑)
hamachan先生のブログの昨日(9/30)のエントリで、「クソ労働環境」という言葉が紹介されておりました。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/09/kousyou-a3ca.html
「もとをたどると、http://kusoshigoto.blog121.fc2.com/ニートの海外就職日記)から来ているようです」とのことなので読んでみたのですが、まあ正直なところ15分くらいで飽きました(笑)。hamachan先生は「先日のアマゾンレビューをされたSaradin "SARA"さんとも共通する感覚のようです」と云われていますが、たしかにこれは社会の気分として流れているある種の「感覚」の典型なのでしょう。そう思って私も9月25日のエントリでこのレビューをご紹介したわけです。
hamachan先生はこの手の言説に対しても「叫び」としての意義を見出しておられるようですので、『「解雇自由でみんなはっぴぃ」論に対する皮肉としては効果的』という好意的な評価をしておられますが、私としてはこの手の言説は赤木やら雨宮やら後藤やら杉田やら増山やら(50音順・敬称略)とかと同じで、別に存在を否定(内容については当然肯定も否定もありますが)するでもなく、とりあえず遠巻きにして生暖かく見守ろうかという感じです。
実際、Saradin "SARA"氏のamazonレビューを遠巻きに生暖かく鑑賞してみると、なかなかどうしてしみじみとしたものもあります。もちろんほとんどシンパシーは覚えないわけですが、「ほとんど」ですからかすかにシンパシーを覚えるところもあるわけでして(笑)。なんと申しましょうか、この痛々しいまでのナイーブさと思い込みの強さに奇妙な愛らしさを感じてしまうというか(「外国の労働環境はフェア」だなんて、ホントどこの外国をみてそう思い込んだやら…)。氏はピアニストだそうですが、有名オーケストラと競演するようなピアニストがこんなところでamazonレビューを書いているわけもなく(偏見)、かといってピアニストと称される以上は「お稽古」だけの「ピアノの先生」ではなくて、人前での演奏もしておられるのでしょう。となると、これまでの経歴においていわゆる「夢追い型フリータ」として「クソ労働環境」なるものの中で相当のご苦労をされた経験があるだろう(ことによると現在も)ことは容易に想像できるわけです。で、ピアニストということですからおそらくはたいへん繊細で豊かな感受性をお持ち(偏見)の方で、したがって思い込みも激しかろうと想像(偏見)するわけで、こうした経験と感受性が「ニートの海外就職日記」みたいな言説と結合すると、かくもナイーブなamazonレビューが出来上がってしまうのだろうなあと。そう思うと、hamachan先生がお嫌いなこの「妙にペジョラティブなものの言い方」も、いじらしい?強がり、虚勢にも見えてくるわけでして。まあ、そんなこんなのセンチメンタルな推測(ほとんど妄想)が働いてくる、なかなかどうして鑑賞に値する文章なわけです。
さらに、よくよく見るとナイーブな企業批判ばかりではなく、けっこう鋭いポイントに踏み込んでいたりする部分も一部にはあるのも面白いところです。たとえば「自分が注文を受ける側なら非常に卑屈になるくせに、お客様(貧乏神、疫病神)になった瞬間に、神になったかのように傲慢に振舞い、また神のような待遇を要求する」というのは、もちろんご本人は日本人の性向を皮肉っているだけだろうと思うのですが、まさに「自分がお客様として神のように振る舞いたいのであれば、自分もお客様に対するときには神に対するように『卑屈に』ならなければならない」という真理(これはレトリックであって論理的に正しいと主張しているわけではありません。為念)をついているわけで、これは「感情労働」という概念も提唱されるなど、近年一部で注目を集めているテーマでもあります。
「みーんな不幸で、みーんな幸せwww。それが日本社会であり、日本人の基本性質でもある。」というのも、実は意味はよくわからなくて、単なる日本人の平等志向を揶揄しているだけなのかもしれませんが、「みんな不幸=いわゆる『クソ労働環境』」「みんな幸せ=日本の文化的で衛生的な豊かな社会」と読み替えてみると、これは社会のありよう、労働者の自己決定のあり方などをふくんだ難しい問題に行き着きます。まあ、Saradin "SARA"氏には嘲笑(www)の対象でしかないのかもしれませんが。
ちなみに「ニートの海外就職日記」については、15分くらい読んだ限りではナイーブを通り越して独善に陥っている感があり、まあこの人もいろいろ苦労してこうなったんだろう、こういう人もいるんだろうなあという感じです。
ということで、本日はamazonレビューの鑑賞ガイドになってしまったのでありました。