タクシーのくだりで吹いた件

7月13日のエントリ(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20090713)の五十嵐先生のご意見を批判した記述の中で、「タクシーのくだりでは思い切り吹きました」と書いたところ、「タクシーが増えて交通事故が増えているのは事実なのに、なぜ吹くのか」とのご意見を頂戴しました。まあ、現実にタクシー運転手として生計を立てている方にとっては切実な問題でしょうから、軽々に吹かれてはたまらないというのはよくわかります。
そこでなぜ吹いたかと申せば、タクシーの規制緩和に関してはこれまでも多くの議論があり、ほぼ決着がついている(比較的新しいものとして、昨年タクシーの規制強化が議論されたときのこれhttp://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/minutes/wg/2008/0929/summary0929.pdfをごらんください)のに、それをまたぞろ持ち出してこられた、しかもこの文脈で、ということで思わず「思い切り吹いて」しまったわけです。
たしかに、昨年後半以降はタクシーの事故が増加しており、警視庁が業界団体を集めて安全運行を求めたりもしているようですが、その理由は規制緩和というよりは景気の後退による乗客数の減少にあるというのが一般的な理解でしょう。それまでは多少ながらタクシーの事故は減少傾向にありましたし、規制緩和が進んだ2002年以降、事故が明らかに増えたという事実はありません(業界では、労使双方から「規制緩和はそれ以前の1997年から緩やかに進められており、1997年から2002年にかけては事故が大幅に増えた」という主張がされているようですが、現実にはこの間タクシーの台数はほとんど増えていないため、規制緩和で台数が増えたから事故も増えたというロジックは成立しません)。
乗客の減少が事故増の原因であるなら、景気変動に応じて台数が増減するような方法(代表的なのはマーケットメカニズムだと思いますが)を考えるのが筋というものでしょうが、業界労使が主張しているのは現有の台数を減らすことはまかりならぬ(特に「労」ですが)、新規参入を禁止せよ、というものですから理屈が通りません。
また、単に台数増で事故が増えたから台数を減らせというのも短絡的といえば短絡的で、例えば台数増・運転手増で安全教育が行き届かなくなっているのであればそこをこそ規制してきちんと教育がされるようにすべきでしょうし、運転技能そのものに問題があるなら二種免許試験の規制を強化すべきでしょう。
まあ、「使」がどうかはよくわかりませんが、「労」としてみれば、本丸は事故ではなく賃金の方なのでしょうから、ちょっと理屈は苦しくなるのでしょうけれど。もちろん市場の失敗は起きうるわけで、それに対しては歩合給の比率とか、最低保障賃金とか、最高乗務距離規制や乗務時間規制の遵守(当然ですが)やその引き下げとかいったことを考える必要があるでしょう。これは団体交渉や労使協議を通じて実現していくことが望ましく、安易に参入規制の復活強化に期待するのはいかがなものかとは思いますが…。