日銀総裁人事

今年の春期労使交渉はきのう、金属労協主要各社の回答が出揃い、最初かつ最大のヤマ場を越えました。感想は追い追い書いていこうと思いますが、まずは毎年恒例のネタ(笑)で新聞各紙の社説の読み比べを…と思ったところ、今朝社説で取り上げていた全国紙は日経新聞だけでした。これはこれでなかなか味のある社説なのですが(笑)、年々春闘の回答が社説で取り上げられることが減ってきている感じで、寂しいものがあります。
で、春闘に代わって全紙で取り上げられていたのが日銀総裁人事でした。私は金融政策のことはわかりませんが、新聞の社説がそれなりに世論を反映するとすれば、どうやらこれに関しては世論の雲行きは参院で不同意とした民主党に分がないようです。
まず、一般に「右より」といわれる読売、産経の両紙は、露骨に民主党を批判しています。

 政府は、不同意となった2人について、人事案の出し直しを迫られる。福井俊彦総裁の任期は19日で切れる。同じ案を再提示するにせよ、候補者を差し替えるにせよ、残された時間は少ない。前例のない混乱ぶりだ。
 こうした事態を招いた責任の多くは、民主党にある。

 民主党は、政府・自民党を追い詰めようとの思惑の方を、人物評価より優先したのではないか。それでは、日銀総裁人事を政争の具にしていることになる。

 野党、とくに民主党は、しっかりと責任意識を持って、事態打開のための与野党協議に応じるべきだ。総裁候補の安易な差し替えは、日銀総裁の信認を損なうことにならないか。そんな点も含め、冷静な判断を求めたい。
(平成20年3月13日付読売新聞朝刊社説から)

 政府側が最良の案として出した武藤氏について民主党は、財務省出身者であり、財政・金融分離の観点から好ましくないとの理由で不同意とした。
 国会同意人事という制度がある以上、政党が各人事案で賛否を判断するのはよいとしても、日銀総裁の不在という重大な事態を招いてまで不同意を貫くほどの反対理由なのか。説得力はまったくない。
 これでは、人事案の出し直しを強制して政府にダメージを与えるだけが目的で、参院の多数という権力を乱用しているとの疑念を招かないか。
 民主党には野党第一党として責任ある対応が求められている。日本売りを加速する結果になると知りながら、総裁空席の事態を招く行動に出たことはきわめて残念だ。参院本会議で一部の民主党議員の欠席、棄権が出たことを執行部は重く見るべきだ。
(平成20年3月13日付産経新聞朝刊「主張」から)

この2紙に共通しているのは、与党の責任についてはほぼ不問であることと、総裁候補の差し換えは好ましくないとしているところと申せましょう。
日経新聞はといえば、二日続きで社説で取り上げる熱心さで、昨日(12日)の社説はタイトルもそのものずばり「「不同意ありき」の民主党は無責任だ」となっています。

 カギを握る民主党は「財政と金融政策の分離」を理由にして、「武藤総裁」に反対する方針を決めた。所信聴取の前から、民主党内は反対論が大勢を占めていた。初めから不同意ありきでは、新ルールが生かされない。これが責任ある政党の対応なのだろうか。極めて遺憾である。

 民主党の「財金分離論」は結局、武藤氏が財務次官経験者だからふさわしくないと言っているようにしか聞こえない。不同意にするなら、もっと説得力のある説明が要る。
 福井俊彦総裁の任期が今月19日に迫り、残された日数は少なくなった。総裁空席となれば、内外の金融市場などの混乱は避けられず、国際社会での日本への信頼感が失墜しかねない。日銀総裁人事がここまで混迷した責任の一端は、福田康夫首相にもある。もっと早く提示することはできたはずだ。
 国会の同意人事は、衆参両院で多数の同意を得る必要がある。他の野党も「武藤総裁」阻止で足並みをそろえ、参院本会議で採決すれば不同意の公算が大きい。互いに突っ張り合うだけでは不毛である。与党と民主党は党首会談などで事態打開に動くときだ。
(平成20年3月13日付日本経済新聞朝刊社説から)

 世界の金融が不安の連鎖の瀬戸際にあるのに、日本の参議院は政府の提示した武藤敏郎日銀総裁案を否決した。米欧の主要中央銀行が緊急の資金供給策を発表したとはいえ、米国発の国際金融危機は深刻だ。日銀総裁の後任人事を早急に決めることは、日本の国際的な責務である。

 日本はサブプライム問題の直接の影響は小さいとはいえ、ねじれ国会の下で福井俊彦日銀総裁の後任人事が暗礁に乗り上げている。危機の歯止め役になるどころか、余計な不安材料を加えるようなありさまだ。政治は金融危機の実態を見据え、国際的な責任を果たすよう動くべきだ。
(平成20年3月13日付日本経済新聞朝刊社説から)

日経新聞は首相・与党の責任にも言及し、与野党双方に善処を求めています。候補の差し替えには一応否定的なようですが、なにより日銀総裁空席の回避が最大の要点という考え方のようです。
さて、それでは民主党が頼りにできる?「左より」の2紙はどうかといいますと、こちらもともに2日続けて社説に取り上げています。なるほど、この問題はまことに今日の日本政治のホットイシューだということでしょう。
そこで、まず毎日はといえば、

 そもそも同意人事の賛否が衆参で分かれた際どうするか、他の法案などと違い明確なルールを作ってこなかったのが混乱の要因でもある。衆院で指名された首相が内閣を組織することを踏まえれば、やはり野党が人事を覆すには、大多数の国民が納得できる相応の理由がいるのではないか。

 いずれにせよ日銀総裁がなかなか決まらない事態は避けるべきであり、ここは民主党の自重を求めたい。例えば本会議に欠席、あるいは採決を棄権する方法もある。棄権・欠席すれば参院も与党が多数となり、同意案は可決する一方、民主党が今回の人事に反対したと国民はきちんと認識するはずだ。欠席や棄権はまったく邪道だが、人事の仕組みが不備な中、緊急避難措置として検討してもよいと思われる。
 無理な注文をするより、民主党は政権を奪取するのが先だと考えた方がいい。
(平成20年3月12日付毎日新聞朝刊社説から)

 金融市場が緊迫した状態にある中で、日本では中央銀行のトップが不在というのは、海外からは奇異に映るだろう。また、正副総裁人事が与野党のせめぎ合いの中で揺れること自体、日銀の信認にマイナスに作用する。
 日本に対する信頼が損なわれないようにするためにも、与野党に責任ある対応を求めたい。とりわけ民主党は、「空席は与党のせい」という理屈が通用しないことを自覚すべきだ。
(平成20年3月13日付毎日新聞朝刊社説から)

意外にも社説では与党に対する批判はありませんが、それにしても民主党に対してはまことに暖かい姿勢で、12日の社説では「棄権・欠席」という落としどころまで提案してくれています。それにもかかわらず不同意となったことで、13日の論調はかなり手厳しくなっています。候補の差し替えはあってもよいとの考えのようです。
最後に朝日です。

 私たちは民主党に対し、大局的な見地からこの人事を慎重に検討するよう求めた。きのう武藤氏らが国会で所信を述べてから時を置かず、不同意を決めたのは残念というよりない。

 だが、ことは日本の金融政策の司令塔をだれにするかという問題だ。民主党の反対理由を聞いても、政府が最終的に任命責任を負う重い人事を覆すほどの説得力があるとは思えない。

 さらに腑(ふ)に落ちないのは、今回の不同意方針に福田首相を追い詰めようとの政局絡みの思惑が感じられることだ。
 このまま突き進めば、民主党も返り血を浴びかねない。円高と株安が連鎖的に続く不安定な経済情勢を見れば、日銀総裁人事が混迷するマイナスは大きい。まして空席になるとすれば、首相の責任だけでなく、民主党も責めを負わねばなるまい。

 もう一度、民主党に問いたい。ここが政権とことを構える勝負どころなのか。大局的な判断をすべき時だ。
(平成20年3月12日付朝日新聞朝刊社説から)

 がっかりして、力が抜ける思いである。注目の日本銀行総裁人事は結局、参院民主党など野党の反対で政府提案は不同意となり、白紙に戻ってしまった。
 政府与党と野党は、何の工夫も知恵もないまま、激突への坂道を転がっていった。総裁の任期切れははるか以前から決まっていたことだ。なのに、現実的な解決を見いだせない。その結果、日本の金融政策のトップが不在になりかねない。政治のあまりの無策にあきれる。

 参院での人事不同意を受けて、与党は民主党に政党間協議を呼びかけるという。与党側はこれまでの非を率直に認めて、総裁ポストを空席にしないために協力を求めるしかあるまい。
 ガソリン暫定税率などの修正案づくりの時間切れが迫っている。総裁人事とごちゃまぜにすべき話ではないが、落ち着いた与野党協議の環境をつくるなかでともに出口を探るのが現実的ではないか。
 民主党も一度は武藤氏反対を通したのだから、そろそろ拳の下ろしどころを考えてはどうか。不安定な経済情勢をはじめ、ガソリン税や道路財源での対決といった大局を見据えるべきだ。
 与野党ともに、軟着陸のための知恵と勇気を発揮してもらいたい。
(平成20年3月13日付朝日新聞朝刊社説から)

こちらも民主党になみなみならぬ期待を寄せつつも、今回の判断は「作戦ミス」と受け止めて再考を求めています。もっとも、こちらは首相・与党の責任を問う姿勢もふんだんに有しており、他紙とは異なり、まずは与党の責任だが、民主党にも責任はあるというスタンスをとっています。
そして、意外にも5紙が足並みをそろえたのが「武藤総裁OK」との判断です(伊藤氏についてどうなのかはわかりませんが)。まあ、専門家も研究者も市場関係者も経済界も異論を述べていないのですから、OKと判断するのが妥当なのでしょう。
しかし、野党も白川氏は同意したわけですが、それはそれでよかったのでしょうか?デフレがこれほどに長引いたのは日銀の不手際ではないかという見方は強いのではないかと思うのですが…。まあ、バランス上一人は日銀出身者が必要という判断なのかもしれませんが。