サラリーマン漫画の作者はサラリーマンの味方なのか?

「課長・島耕作」などの作品で人気の漫画家、弘兼憲史氏のインタビューです。

 ――サラリーマンの働き方はどう変わったか。
 決定的な変化は終身雇用制度がなくなったこと。僕らは親から、良い会社に入ると良い人生になるから勉強して良い大学に入れと言われて育った。大企業で安定した生活を送ることが人生の目標だった。今は良い大学を出て良い会社に入っても、いつリストラされるか、会社がつぶれるか、M&A(合併・買収)で乗っ取られるか分からない。
 若い人の中には、最初に就職した会社で定年まで働くと思っている人はそんなにいないのではないか。サラリーマンといえども、いつ自分が放り出されて一人になるか分からない。外国語の能力を身につけるなど、転職先に自分を売り込むスキルを身につける必要が出てきた。

 ――順調に昇進していくサクセスストーリーはサラリーマンの究極の夢でもある。
 島耕作もこれから社長になり、相談役にもなる。…今の若い人に、会社での出世はどう映るのだろう。「オレはオレでいいんだ」と自分の幸せ、目の前の風景以外に興味がないということになれば、「出世なんてしなくてもいいよ」となってしまう。向上心がないと人間は偉くなれない。現状満足型だったらもう終わってしまう。それが豊かさの中で育ったことの怖さだ。
(平成19年8月27日付日本経済新聞朝刊から)

このお方、こういう企画で度々登場しますし、役所の研究会みたいなものの委員にもなっているようですが、要するにサラリーマン漫画のベストセラーを書いた人ということでしょうから、それであれこれ論評できるものかというのがけっこう疑問なのですが…そうでもないのでしょうか?
で、いつも書いていますが「終身雇用制度」なんて今も昔もなかったわけで、現実は「定年までの長期雇用」という慣行が定着してきたというに過ぎず、「終身」でもなければ「制度」でもありません。
また、「今は良い大学を出て良い会社に入っても、いつリストラされるか、会社がつぶれるか、M&A(合併・買収)で乗っ取られるか分からない。」というのも、現実にそれが起きる確率がそれほど高いかというとそうでもないでしょう。確かに、かつてに較べればずいぶん高まったかもしれませんが…。
それから、「「出世なんてしなくてもいいよ」となってしまう。向上心がないと人間は偉くなれない。現状満足型だったらもう終わってしまう。それが豊かさの中で育ったことの怖さだ。」とおっしゃいますが、偉い人ばかりでは世の中は成り立たないわけで。漫画の世界なら夢を描いて読者を現実逃避にいざなうのもいいでしょうが、現実世界ではほとんどの人は「偉くなる」ことをどこかであきらめて、「それでも幸せ」という折り合いをつけながら生きていくのですから、それを「もう終わってしまう。」と一刀両断するのはいかがなものかと思うのですが。