拡大する正社員採用

このところ、日経新聞は労働需給の逼迫を報じる記事をたてつづけに掲載しています。

 中堅・中小企業で人材不足が深刻になってきた。採用意欲の旺盛な大企業が秋採用を本格化する九月を前に、中堅・中小では来春採用予定者が計画を大幅に下回り、中には一人も確保できない企業も出ている。中堅・中小では通年採用の企業が多いものの、例年に比べ苦戦は必至の情勢。景気拡大で営業環境は好転、受注が拡大しているだけに、人材不足が企業の成長を阻む要因になりつつある。
 歯車の精度計測器製造の大阪精密機械(大阪府東大阪市、吉岡功二社長)は来春の新卒採用が困難になっている。60人超の従業員に対し来春は3人を採用する計画だが、応募者は集まらず、内定者はゼロ。吉岡社長は「景気が良くなると大企業が人材をさらっていってしまう」と嘆く。
 歯車の精度計測器の同社の世界シェアは推定30%前後で「トップクラス」(吉岡社長)。設備投資拡大に伴う計測器需要の増加を受け業績も好調だ。だが、「こうした魅力は大手企業志向を強める今の学生にはなかなか伝わらない」(同)という。
(平成18年8月27日付日本経済新聞朝刊から)

新卒採用はどうしても労働市場の動向によって大きく振れますので、ある程度致し方ないところはあるでしょう。学生さんに視野を広く持ってもらいたいということもあるでしょうが、企業の側もあまり新卒にこだわらず、第2新卒や、未熟練者の中途採用を増やすという考え方もあるのではないでしょうか。

…人材派遣大手、パソナ南部靖之社長に聞いた。
 ――人材派遣市場で企業からの引き合いに変化はありますか。
 「派遣需要は昨秋から上向く気配が出て、今春を境に一気に盛り上がった。当社の受注件数で見ると前年を50%上回る金融や、通信分野の伸びが目立つ。『安く雇えるのなら採用する』と慎重だった製造業も『高くてもいいから人材がほしい』という積極姿勢に変わり、受注件数は自動車が前年比40%、電機も30%増えている。景気回復に加え、銀行による投資信託窓販の強化など規制緩和の効果も大きい」
 ――国際競争もあり、過去の景気回復のようには賃金は上昇しないとの見方もあります。
 「アウトソーシング(業務の外部委託)などでコストを抑える企業努力は続く。しかしすでに景気回復は雇用拡大につながり、賃金も上昇している。大卒初任給を引き上げる企業も増えた。人材関連ビジネスが活発なのも企業が高い賃金を示し、良い条件を求めてヒトが動き始めたためだ。少子化に伴う労働力不足で今後も賃金は上昇を続けるだろう」

 「若い世代は単に数が少ないだけでなく、就職意識も大きく違う。企業は正社員の採用を増やすとともに、派遣でも長期の契約を結ぼうとしている。税収を安定させたい政府も正社員という働き方にこだわる。若者は大企業に就職しても終身雇用や収入の安定は期待できないことが分かり、自由な働き方で趣味など仕事以外の人生目的も追求する。若者の考え方とのミスマッチは労働力不足をさらに深刻にする」
(平成18年8月30日付日本経済新聞朝刊から)

まあ、正社員ばかりになってしまうとパソナも商売にならないわけで(笑)。実際には、とりあえず「就職超氷河期」を見ているいまの新卒者は、バブル期のように積極的に非正社員を選ぶことは少ないような気はするのですが。ワーク・ライフ・バランスに対する意識が高まっていることは事実でしょうが、それはまずは正社員として仕事の安定を確保してからのちの話ではないでしょうか。

 企業が正社員の雇用拡大に軸足を移している。総務省が29日発表した4−6月期の労働力調査では、正社員の前年同期比の増加数が2002年の調査開始以来初めて、非正社員の増加数を上回った。企業は人件費抑制のためパートなど非正社員採用を優先してきたが、景気回復が続くなかで人手不足感を強めており、若者層を中心に正社員雇用を増やす戦略に切り替えつつある。

 正社員数の増加が非正社員数の伸びを上回った背景には、最近の雇用市場の変化がある。景気回復で人手不足感が強まるなか、求職者は非正社員よりも賃金などの待遇面が良い正社員志向を強めており、「条件の良い正社員求人には希望者が殺到している」(都内のハローワーク)。多くの企業はこれまでリストラや採用抑制で正社員を圧縮する一方、雇用調整がしやすい非正社員を積極採用してきたが、優秀な人材を確保するために方向転換を迫られている。
…だが大学卒業時に就職氷河期で正社員になるのが難しかった「25-34歳」の層では、正社員数が6万人減り、非正社員数は9万人増えた。企業の正社員採用拡大の恩恵はこの世代に及んでおらず、課題を残している。
(平成18年8月30日付日本経済新聞朝刊から)

これらの記事をみると、やはり正社員採用はかなり拡大しているようです。長期雇用を前提とする正社員採用は、少しでも長期勤続してほしいということでどうしても若年者が優先されますが、かつてと違って若年は減少していてパイが限られているわけですから、この傾向が続けばいずれは「25-34歳」の層にも正社員採用が広がるでしょう。逆にいえば、この層がさらに加齢して正社員就職がより難しくなってしまう前にできるだけ吸収してしまいたいわけで、現在の好況をなるべく長く持続させるための各方面の取り組みが強く求められるものと思います。