経営労働政策委員会報告

すでになにかと新聞紙上をにぎわせている、2006版の経団連の「経営労働政策委員会報告」ですが、きょう発表されたということなので、これまたさっそくに入手して読んでみました。ざっとみたところ、賃上げに関する記述はこんなところです。

 経済環境に好転の兆しが見える現在、企業にとっては本格的に「攻めの経営改革」に乗り出す環境が整いつつあり、競争力を高めていく好機にある。そのためには、労使の一層の協力が不可欠であり、賃金などの労働条件の改定についても、企業の競争力を損ねることなく働く人の意欲を高める適切な舵取りが望まれる。…
 かねてから日本経団連が主張しているとおり、生産性上昇のない企業も横並びで賃金水準を底上げする市場横断的なベースアップは、もはやありえない。生産性の裏付けのないベースアップはわが国の高コスト構造の原因となるだけでなく、企業の競争力を損ねる。個別企業の賃金決定は、個別労使がそれぞれの経営事情を踏まえて話し合いで決めるべきである。…
…中長期的な見通しに立った経営がきわめて重要となる。従来以上に、経営環境の先行きは見通しにくく、かつてのように足元の短期的な生産性や業績判断をもとにした賃金決定は許されない。賃金の引き下げは現実には困難が大きいことを考えると、安易な賃金引き上げは将来に禍根を残すことになる。
 もちろん、賃金決定は自社の中期的な経営判断を踏まえ、あくまでも個別労使の話し合いによって決定していくことである。いかなる決定を行うかはあくまで個別労使の自由であるが、結果的には、激しい国際競争と先行き不透明な経営環境が続く中、国際的にみてトップレベルにある賃金水準をこれ以上引き上げることはできないという判断に到る企業が大多数を占めるものと思われる。短期的な成果については、引き続いて賞与・一時金に反映することを労使で協議すべきである。直近の業績を従業員の役割、貢献、成果に応じて労働条件に適切に反映していくことは、企業の競争力向上に向けて従業員の意欲と協力を高めるために重要である。

この最初のところを取り上げて、日経新聞などは「賃上げ促す」「賃金抑制方針を転換」などと書いていたわけですね。


ところが、全体をみてみるとどうでしょうか?
先日のエントリ(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20051203)でも書きましたが、2005年版でははっきりと「賃金の引き上げ」という表現が出てきています(しかも2回)が、2006年版にはそれがありません。個別企業で自由に判断すればよい、その結果賃金が上がることも当然ありうるだろう、という考え方は、少なくとも昨年と今年では変わっていないとみるべきでしょう。むしろ、「安易な賃金引き上げは将来に禍根を残す」という、昨年にはない厳しい文言が加わっています。もっとも、これは経済環境が好転する中で賃上げへの期待も高いことから、安易な判断にクギを刺すという趣旨が大きいのかもしれませんが。
また、日経新聞などが繰り返し強調している「企業の競争力を損ねることなく働く人の意欲を高める適切な」「賃金などの労働条件の改定」という表現の意味するところも、後段の記述をあわせて考えれば、結局は従来路線の「短期的な成果については、引き続いて賞与・一時金に反映」ということだと読むべきではないでしょうか。
もちろん、交渉事ですから最終的にどう落ち着くのかはわかりませんし、労組も来年は賃上げを要求するそうですから、今年とは異なる流れになるかもしれませんが、日経をはじめとする新聞報道(今朝の朝刊はけっこう追随記事が出ているようです)はいかにも誘導的な印象があります。