就職の仕組み

今朝の日経新聞「経済新聞」欄には、労働政策研究・研修機構小杉礼子氏による若年雇用に関する論考が掲載されています。見出しは「就職の仕組み柔軟に 採用対象の拡大を」。「若年雇用への視点」という連載のようで、昨日が上、今日が中ですので、明日とあわせて3回のシリーズのようです。
今日の論考のポイントは3つあり、第一に昨日の玄田氏の指摘とも共通する「不利な条件の者がフリーターやニートになりやすい」。第二が「20代後半〜30年代前半のフリーター・ニートが増加し、その長期化・高年齢化により重い世代問題となっている」。第三は「早期化・インターネット化した大卒採用の問題点」、となっています。
そして、その原因と対策については、「就職の仕組み」に注目して、次のように述べています。

 …日本では90年代初めまで、中等教育レベルでも新卒採用を活発に行ってきた。まず正社員として採用し、その後長期的な雇用を前提に企業内で育成するという慣行が広く採られてきた。…それが90年代に入って、一転して新卒採用を厳選化した。…学校から企業内へと直結する育成システムに乗れない若者が急増した。これが若年失業者であり、フリーターでありニートである。…最近は、アルバイトやパートからの正社員登用や契約社員などへの転換の道も広がっているという指摘もあるが、就業経験がないまま20歳代後半から30歳台にかかるとそれも難しいところがある。
 …これらの問題に較べれば、これから大学を卒業する若者たちの問題は小さい。しかし、大学三年の後半で突然就職と向き合い、…結局、途中で就職活動をやめてしまう学生が少なからず出る…また、過年度卒業生になれば応募の機会も狭まるというプレッシャーは学生たちに考える余裕を与えない。…これほど早い時期の採用活動が必要なのか、卒業見込み者のみを対象とする採用では優秀な人材を取りこぼしていないか、…就職のしくみを柔軟にするだけで解決できる部分が大きいのではないか。
(平成17年4月14日付日本経済新聞朝刊「経済教室」から抜粋)

本当に就職のしくみを柔軟にする「だけ」では解決はできないと思いますが、「企業は引き続き未熟練者に対して企業内での人材育成を行う」「それなりに十分な労働需要がある」ということが暗黙の前提としておかれているのであれば、たしかにかなりの部分は就職のしくみの改善で解決可能なのかもしれません。
注目すべき動きとして、経団連が昨年末に発表した「2005年版経営労働政策委員会報告」の一節を紹介したいと思います。この報告書は、経団連が旧日経連時代から毎年発表しているもので、その年の春闘を中心に、労働政策、人事労務管理などに関する経団連の考え方を表明したポジションペーパーです。

 …若年層の雇用促進のためには、まずは企業が若年者に対する有意義な雇用機会を増やすとともに、受け入れ体制を整える必要がある。特に、過去10年程度の「就職超氷河期」に学校を卒業した若年者については、かなりの素質をもちながら、やむなく派遣、アルバイトとして就業せざるを得なかった人も多いと考えられる。彼らのなかには、職業人として有益な知識、ノウハウ、就労観を保持している人材も相当数いるはずである。こうした人材を、一律に「フリーター」としてみるのではなく、人物本位で採用していくことも考慮すべきである。
経団連(2004)『2005年版経営労働政策委員会報告』p.37)

ここには、明らかに企業の姿勢の変化がみてとれます。たしかに、「かなりの素質をもちながら」とか「人物本位で」といった表現には、依然として厳選採用の傾向はみてとれますが、これはバブル期の大量採用がバブル崩壊後に過剰雇用として重くのしかかった経験がまだ記憶に新しい企業としては致し方のないところでしょう。また、その間の「株主重視、投資家重視」の流れが人材育成投資の縮小や経営の短期指向化を招いたことも無視できません。とはいえ、「まずは企業が若年者に対する有意義な雇用機会を増やす」との表現から、控えめながらも(株主、投資家への配慮か?)「長期育成する正社員採用を増やしたい」との意思を読み取るのは希望的観測に過ぎるでしょうか?
大切なのは、こうした流れを後押しすることだと思います。今回の経済低迷は長期にわたったため、小杉氏が指摘するように、20代後半を過ぎて正社員採用への困難が大きいフリーターも多いでしょう。こうした人がフリーター→フルタイム勤務→正社員といったキャリアを作っていくための支援が必要です。適切な支援によって、企業に「30歳のフリーターも十分戦力化可能」と思わせることができれば、採用も拡大するでしょう。企業内での育成を期待する以上、あまり就職先を限定するような支援(特定技能の職業訓練など)には疑問があります。むしろ、心身の強化や意識改革などが重要でしょう。
就職活動の早期化については、学業・学事に与える影響という意味ではたしかに望ましくないだけでなく、準備不足のまま就活に突入するという問題点もあるでしょう。それでもまだ、時間をかければ決まるというものなら早期化にも利点はあるでしょうが、現実には(準備不足のせいもあって)決まらないままにずるずると時間だけがかかるというのが実情でしょう。企業が過年度卒業者を避けるのにはそれほど大きな理由があるわけではなく、実際に「第二新卒」などという採用も行われています。かつて、新卒のほとんどが在学中に就職が決まり、決まらないのが例外的だった時代には、過年度卒業者ということが「就職が決まらなかった、あまり優秀でない人材」というシグナルになっていたでしょうが、現状はそうではないということには(上記の経団連の報告書にもあるとおり)企業も気付いています。小杉氏も指摘するように、これまでになかった状態が出現しているわけですから、いずれ企業もそれに対応した採用を行うようになるだろう、というのもそれほど楽観的すぎるということはないと思います。