中川秀直先生

「上げ潮」路線の旗手として大活躍の中川(秀)先生ですが、雇用問題はどうもあまり得意ではないようで…。
ご自身の公式ホームページで、「中川秀直の約束」として7つの「宣言」をしておられ、そのうちの「宣言4」は「雇用を守り、同一価値労働・同一賃金の実現をめざします。」となっています。いやはや、一見して連合の組織内議員のサイトではないかという感じですが、それの解説としてQ&A形式で書かれた内容を見ると、これはどうもという感じです。
http://www.nakagawahidenao.jp/policy/04.html

Q.正規・非正規の格差についてはどう考えますか

A.
 非正規雇用の方を切り捨てて守ろうとしているのは、経営者の利益だけではなく、実は正規雇用の方の雇用であり賃金です。つまり、ひとつの家庭の中で、お父さんの雇用と賃金を守るために、お母さんのパートが切られ、新卒の子供が正規雇用につけないという状況が生まれているのだと思います。こんなことで、お父さんが首切りにあったらこの一家はどうなってしまうでしょうか。私はここ数年、正規雇用非正規雇用の差をなくして、全員が職務給をもとに働くべきだと主張しています。
 一家の家計は、家族全員で分かち合いをしていくべきではないでしょうか。政府も、経営者も、正規社員の労働組合も、非正規雇用のために「三方一両損」の努力をすべきと思います。オランダでもそうした合意をしたことがあります。  雇用問題について、若いみなさんにすべてのしわ寄せをすることでしか維持できないような「終身雇用制度」だけで国民全体を救うことはできません。「終身雇用制度」は、経済が成長していること、人口構造がピラミッド型でなければ持続不可能です。今日の経済状況の中では、雇用の分かち合い、家計負担の分かち合いが必要です。一刻も早く、日本型のワークシェアリングの社会に移行しなければなりません。
http://www.nakagawahidenao.jp/policy/04.html

……………orz
じゃあ具体的にどうするんだ、というのがわからないので、コメントしにくい面もあるのですが、それはそれとして。
現状、「ひとつの家庭の中で、お父さんの雇用と賃金を守るために、お母さんのパートが切られ、新卒の子供が正規雇用につけないという状況が生まれているのだと思います」という状況にあるとして、これはなにより不況、低成長のせいでしょう。その解決策として「正規雇用非正規雇用の差をなくして、全員が職務給をもとに働く」とか、「若いみなさんにすべてのしわ寄せをすることでしか維持できないような「終身雇用制度」」をやめるとかいうのはおかしな話です。

  • 「終身雇用制度」というのは、現実のわが国における長期雇用は「終身」でもなければ「制度」でもないという点で二重に間違っていますが、ここではそれはおきます。

「全員が職務給」だの「終身雇用制度をやめる」だのいうことは、端的にいえば「お父さんの雇用と賃金を守」らない、ということでしょう。となると、現下の経済情勢においては、それこそ「お父さんが首切りにあっ」てオシマイ、ということになりかねません。まあ、「雇用を守り」と「宣言」しておられますので、お父さんの雇用は守るが賃金は守らない、ということになるのでしょうか。となると、やはり現状ではお父さんの賃金が減っておしまい、ということになる可能性が高そうです(これは賞与の減額などで実際に起こっていることでもあります)。現実に仕事がないのですから、お父さんの賃金を減らしたから子どもを雇ってそちらにその分の賃金を払おう、という話にはなかなかなりにくいはずです。
まあ、オランダ・モデルを担ぎ出していますので、全員を正社員にして、労働時間の短縮で仕事の減少に対応しようというアイデアかもしれません。お父さんが1日1時間残業して9時間働いているとしたら、その9時間をお父さんが3時間、お母さんが3時間、子どもが3時間という具合に分け合って、賃金もそれぞれ3分の1ずつ受け取ればいい、ということでしょうか。まあ、これならたしかに「雇用を守」っていますし、やりようによっては「全員が職務給をもとに働く」ということにもなりそうです。本当にこんなことをやったら、生産性がガタガタに落ちて、その分賃金を下げるか、あるいは一段と売上が落ちて仕事量が減り、3時間ずつ分け合っていた仕事が2時間分しかなくなってしまうか、そんな事態に立ち至るであろうことは明白なように思われますが…。さらに、これはたしかに「雇用の分かち合い、家計負担の分かち合い」をしたことにはなりますが、「終身雇用制度」なるものを見直したといえるものなのかどうか…(まあ、職能給制度とかも「なるもの」に含まれているというのなら、そういう言い方もあるのかもしれませんが)。
いずれにしても、具体的にどうするのか(解雇規制はどうするのか、とか)が書いてありませんし、どことなく情緒的に受けのいい文言を並べただけ、という印象が禁じ得ません。
実際問題としては、現状のように仕事がなくて困っているときには、制度をいくらいじってみたところで雇用が増える可能性は限られていますし、それを無理矢理に増やそうとすれば、それにともなう弊害も大きくなることは避けがたいのではないでしょうか。現状の問題は制度以上に不況と低成長のはずです。
現に、中川先生ご自身も「上げ潮」の説明の部分ではこう書いておられるではないですか。

 ゼロ成長やマイナス成長とは、お父さんの雇用維持と、子供の新規正規雇用のどちらかを選択しなければならない社会のことです。お父さんの雇用も維持され、子供の新規正規雇用も実現するには経済のパイが拡大していなければなりません。
http://www.nakagawahidenao.jp/drnovel/risingtide/04.html

これもかなり情緒的な表現ですが、大筋では正論でしょう。この考え方と、上の妙ちきりんなオランダ・モデル的「日本型ワークシェアリング」とのギャップがどうにも理解不能です。取り巻きの誰かが入れ知恵しているのでしょうが、もうちょっとまともな取り巻きを選ばないと…。

  • なお、長期雇用慣行においては雇用量の調整のために非正規労働を一定割合必要とすること、さらにその非正規労働の現状が能力向上やキャリア形成が困難な実態にあり、やむを得ずそうした非正規労働に就かざるを得なかった若年者が厳しい状況におかれがちであるといった問題点があることは私もよく承知していますし、政策的な支援、対処が必要であるとも考えております。為念。