電機連合、不妊治療休暇を要求へ

週末の新聞記事から。電機連合が「不妊治療休暇」を来春闘で要求する方針を決めたそうです。

不妊治療をうける女性の増加で「休暇が足りない」など労組に対する相談件数が増えているうえ、一部単組から統一要求に盛り込むべきとの提案があった。 電機連合は、多目的休暇と休職の理由に不妊治療を追加することを経営側に求める。多目的休暇制度がない場合は、不妊治療を含んだ新しい休暇制度作りを主張する。女性だけでなく、配偶者など男性も取得の対象。具体的な取得日数の目標は設けない。来月下旬の中央委員会で正式に採択する。
 電機大手では有給休暇のほかに、ボランティアや看護・介護のために取得できる多目的休暇制度を備えている企業が多い。例えば東芝では「ワイドプラン休暇」という名称で、消化しきれなかった年次有給休暇を二十日を上限に積み立て、ボランティアや自己啓発に利用する制度がある。多目的休暇の取得目的に不妊治療を含む企業は「おそらくない」(電機連合)という。
不妊治療を受けている人は2003年の推計では466,900人ともいわれ、1999年の1.6倍に増えた。
(平成17年12月17日付日本経済新聞朝刊から)

不妊治療は何年間もかかることも多いそうですし、から、年次有給休暇だけでは対応できないというケースも出てくるでしょう(当然、他の理由でも使いたいでしょうし)。不妊治療が少子化対策としてはそれほどの効果は見込みにくい(治療を受けている四十数万人の半分が5年間で一人生んだとして年4〜5万人ですから、このところ年間110万人そこそこの年間出生数を大きく増やすというわけではない)わけですが、出産を支援するという社会的意識づくりにはなりますし、労組が「子を望む組合員に対する支援」として取り組むことは有意義でしょう。ただ、やり方にはくふうが必要なように思われます。

企業サイドがいちばん受け入れやすいのは、多目的休暇の目的の拡大でしょう。ボランティア活動のための多目的休暇には、社員の士気向上だけではなく、企業にも一応、社員がボランティアに参加することで企業イメージが上がるかもしてない、というメリットがあるわけですが、不妊治療のための多目的休暇も、出産支援意識の高揚への協力を通じた企業イメージ向上が期待できるでしょう。
ただ、この方法の問題点は、記事にもあるように、失効した年次有給休暇を多目的休暇にあてている例が多いことから、不妊治療で年次有給休暇を使い切ってしまうと多目的休暇の日数自体がなくなってしまう可能性があることです。不妊治療をはじめる前に、すでに何十日も多目的休暇がある人はいいでしょうが、そうでない人のことを考えると、やはり失効した年次有給休暇の積立では限界がありそうです。
となると別制度か、ということになりますが、方法としていちばん簡単なのは電機連合も考えているように休業・休職の事由に不妊治療を加えてしまうことでしょう。法定以外にも、傷病のほか、冠婚葬祭や公職就任などのための休業・休職を認めている企業は多く、とくに法定を上回る育児休業を認めている企業であれば、それとのバランスから不妊治療への休業・休職を認めることには違和感はないでしょう(不妊治療のための退職を予防することは、育児のための退職を予防することと類似のことと考えられるでしょう)。そうでない企業では、不妊治療は傷病にともなう労働不能による欠勤とは異なりますので、正直いって育児休業の充実のほうが先かな…という印象はなきにしもあらずです(不妊治療のための休暇を利用した人が出産によって退職する可能性はかなりありそうなので、勤続がより確実な育児休業の拡充を優先することは理屈にあっているように思われるので)。まあ、このあたりは並行して取り組んでいけばいいのかもしれません。
そもそも、実際にこの制度を利用する人がどのくらい出てくるかといえば、不妊治療を受けている人が増えているとはいえ、女性の生産年齢人口の1%くらいのもので、就労している人はさらにその一部、制度を利用するのはさらに一部ということでしょうから、それほど多くはならないでしょう。多目的休暇が失効年次有給休暇の利用であれば筋としては有給でしょうが、それでもさほど大きなコスト負担にはなりそうもありません(無給の休業にすればなおさらで、限られた少数の人が利益を受ける制度は福利厚生としてはあまり望ましくはないことを考えれば、無給としたほうが筋はいいかもしれません)。職場としても、病気欠勤への対応と同程度の負担ですむでしょう。そう考えれば、企業としてもこの要求にはこたえておいて損はないような気がします。
世間では賃上げが注目を集めていて、電機連合も今回はベア(賃金改善?)要求を行う見通しですが、それとともに、春闘での話し合い・交渉テーマの多様化も確実に進んでいるようです。