橘川武郎・連合総研編『地域からの経済再生』

とりあえずこれで義理やらなんやら(笑)の本は一巡した感じです。一昨年以前の本で何冊か不義理しているのがあるのですが時効ということで(笑)

地域レベル・地場産業レベルでの産業構造転換・高度化、産業集積の事例から、雇用増と経済再生の道筋を示そうという本です。


事例は比較的有名なものも多いのですが、あらためて地域産業の強さとは変化への対応にあるということを感じます。もっとも、雇用増という面をみると、地域によっては必ずしもうまくいっていない実態も(正直に)示されており、いかにこの十数年が日本経済・地域産業にとって厳しい時期だったかが伺われます。
さて、事例中心ということもあって比較的読みやすい本で、読み物としてもなかなか面白い本だと思いますが、私は産業政策のことはよく知らないので、それ以上の感想といってもとりたててあるわけではありません。
それでもまあ、とりあえずの印象をふたつ書いておきますと、海外事例は「日中英比較」ということで、中国温州と英国ケンブリッジが取り上げられているだけにとどまっていますが、ここで紹介された日本の事例をみると、国際的に最近の成功例としてたびたび取り上げられるイタリアの地域レベルでの産業集積、いわゆる「サード・イタリア」と共通点が多いと感じます。これとの比較とまではいかないまでも、これに対する言及がないのはもったいないような気がします。また、産業クラスターを論じるのであれば、やはりシリコンバレーへの言及がないのは物足りないように思われます。もっとも、「日本の産業クラスター計画においてアメリカをモデルにする必要はない」との主張が出てきますので、あえて避けたのかもしれませんが。
もうひとつ、ひょっとしたらこれとも通じるかも知れませんが、地域経済を論じているのに「特区」についてほとんど言及がないのも物足りないものがあります。もちろん、十年、二十年あるいはそれ以上のいきさつを調査していますので、ここ数年の話、しかもその効果も定かでない特区については言及がないのも当然かもしれませんが。
とはいえ、これらの点にはなんとなく連合(総研)のアメリカ嫌い、構造改革嫌いが反映されているような印象もないではなく、それはそれで納得いくような気もするのでした。