マクドナルドの店長に残業代

日本マクドナルド直営店の店長が、店長は労基法上の管理監督者にはあたらないとして割増賃金等の支払等を求めた裁判の判決が東京地裁でありました。

 日本マクドナルドが店長を管理職として扱い、残業代を支払わないのは違法だとして、埼玉県内の店長、高野広志さん(46)が未払い残業代など計約千三百五十万円の支払いを求めた訴訟の判決で、東京地裁(斎藤巌裁判官)は二十八日、「店長の職務内容から管理職とはいえない」と述べ、同社に約七百五十五万円の支払いを命じた。労働時間や残業代などの規制適用外となる労働基準法管理監督者の認定を厳格にとらえた。(関連記事を社会面に)
 マクドナルドには約千六百八十人の店長がいるほか、他の外食チェーン店でも店長を管理職としている企業は多い。店長を非管理職として扱うよう見直す企業もあり、判決は各社の対応に影響を与えそうだ。
 訴訟では、店長の高野さんが管理職として経営者と一体的な立場にあり、出退勤の自由や賃金などで一般労働者に比べて優遇されているか否かが争点になった。
 判決理由で斎藤裁判官は、店長にはアルバイトの採用など一定の権限はあるが、「権限は店舗内に限られ、経営方針の決定に関与しているとはいえない」と述べた。
 出退勤についても、店舗の営業時間にはシフトマネージャーという役職が必要で「実際には法定労働時間を超える時間外労働を余儀なくされる」と指摘、年収なども「管理職の待遇としては不十分」と判断。高野さんは労基法の適用除外となる管理職には当たらないと結論付けた。
(平成20年1月28日付日本経済新聞朝刊から)

著名な弁護士である水口洋介先生のブログに判決文が掲載されています。
http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/files/mcdonald.pdf
で、例によっていい加減なる要約を試みると(本当にいい加減ですからそのつもりで)、

  • 店長はアルバイトの採用・時給決定・昇格の権限を持っていたが、正社員の採用等の権限はなく、人事考課への関与も限定的で、人事労務管理において経営者と一体的な立場にあるとはいえない。
  • 店長は店舗の経営計画策定、販促活動、経費支出などに一定の権限を持つが、営業時間や仕入先選定、商品開発、価格設定などの権限は事実上なく、企業の経営方針の決定に関与しているとはいえない。
  • 店長は勤務スケジュールを自ら決定できるが、営業時間の必要上相当の長時間労働が必要となるのだから事実上勤務時間の自己決定権はない。
  • 店長の処遇は年平均約707万円で、管理監督者扱いでない最上級のアシスタント・マネージャーの平均約591万円(割増賃金含む)と相応の差異があるようにみえるが、人事評価の下位10%にあたるC評価店長は平均約579万円、40%を占めるB評価店長は平均約635万円であり、労基法上の管理監督者にふさわしい水準とはいえない。

ということで、店長は管理監督者でないとしました。まあ、過去の判例の流れからして妥当なものといえましょう。私としては、店長の処遇の問題が決定的ではないかと思います。評価次第では部下の平均を下回るというのに、割増賃金を支払わないというのはいくらなんでも行き過ぎでしょう。全員一律に707万円であればまだしもではなかったかと思うのですが。人事考課の基準や方法がどうなっているのかはわかりませんが、成果主義かなにか知りませんが、評価で差をつけすぎたことのツケが思わぬところで回ってきた形です。
もっとも、「経営者と一体的立場」「企業の経営方針決定に関与」などといった判断要素については、企業の一般的な人事管理の実態とは乖離がみられることは事実なので、そこは依然として課題として残るわけですが、いずれにしても「店長」だから年収700万円で長時間働かせていいわけではないよ、ということがこれで周知されれば、わが国の人事労務管理の改善にいくらかは寄与するかもしれません。
それはそれとして、判決が付加金について「当裁判所が認定した時間外割増賃金等は、原告の基準給をそのまま算定の根拠としたため、その分高額なものとなっている」などと指摘して、「認定した時間外割増賃金及び休日割増賃金の5割…の付加金の支払を命じることが相当である」としたのは、なかなか実務にそっていて興味深いものがあります。要するに、店長の基準給というのはある程度の長時間労働を前提に、その分を含んで設定されているのだから、これをベースに割増賃金を計算すると一種のダブルカウントになって高すぎる結果になるよ、というまことにもっともな判断です。これは類似の事件でもこうした判断が行われているのかもしれませんが、私は初めてみました。
また、「時間外割増賃金等が支払われないまま店長として長時間労働をしていたことによる原告の精神的苦痛は、時間外割増賃金等や付加金が支払われることで、慰謝されるべき性質のものであるともいえる」として、慰謝料の支払請求は棄却しています。これも納得のいく結論です。
マクドナルドは控訴したようですが、結論は変わらない可能性も大きく、労働時間や労働日数を把握した上で時間外割増賃金等を計算して支払い、その結果として結局は平均的には店長の賃金は従来と大きくは変わらない(多少の持ち出しは避けがたいと思いますが)、という賃金制度の見直しを急いだほうがよろしいのではないかというのが私の感想です。