規制改革会議に対する厚生労働省の言い分(2)

昨日の続きです。これは厚労省としても怒らざるを得ないところかもしれません。

【規制改革会議の主張(抄)】
○ 過度に女性労働者の権利を強化すると、かえって最初から雇用を手控える結果になるなどの副作用を生じる可能性もある。
厚生労働省の考え方】
○ 女性労働者の権利の保護は、人権上の観点から図られるべきものである。例えば、男女雇用機会均等法等は企業に対し、人権上の観点から、性差別をせずに雇用管理を行うことや、妊娠・出産に係る女性の保護など、当然のことを求めているにすぎない。
 「過度に女性労働者の権利を強化すると、かえって最初から雇用を手控える結果になるなどの副作用を生じる可能性もある。」という記載は、
・人権上の必要性の有無にかかわらず、一方的に女性労働者の権利確保を否定することにもなり得る
・「女性の雇用を手控える」企業については、その行為自体が女性に対する差別となり、男女雇用機会均等法上の指導の対象となる
 など、人権上あるいは法制度上認められない行為を容認する記述であると考える。

これは、厚労省の憤りももっともであり、もう少し規制改革会議も口の利き方というか、表現を選ぶべきだろうと私も思います。ただ、規制改革会議は「過度に」と言っているわけで、人権上の必要性があっても規制すべきでない、と言っているわけではないだろうと思います。「かえって最初から雇用を手控える結果になるなどの副作用を生じる可能性もある。」にしても、「法制度上認められない行為を容認する記述」とまではいえないでしょう。

【規制改革会議の主張(抄)】
○ 一定期間派遣労働を継続したら雇用の申し込みを使用者に義務付けることは、正規雇用を増やすどころか、派遣労働者の期限前の派遣取り止めを誘発し、派遣労働者の地位を危うくする。
厚生労働省の考え方】
○ 雇用の申込義務は、無制限な派遣労働の拡大に歯止めをかける役割を果たしているが、当該義務を撤廃すれば、直用の常用労働者から派遣労働者への代替が一気に加速するとも考えられ、当該義務の存在が派遣労働者の地位を危うくするとの主張は不適当である。

噛み合いませんねぇ。まあ、厚労省としてはまともに議論はしないということなのかもしれません。実務感覚としては規制改革会議の言うとおりで、一定期間継続したら雇用の申し込みを義務づけられるなら、企業はそうならないように期間を短くしようとするだろうというのは非常によくわかります。

  • 規制改革会議の表現はやや不適切で、企業は「期限前の取り止め」ではなく、規制にかからないように最初から短い期限を設定するだろうと思います。

で、それがもたらす結果は、企業も派遣労働者ももっと長期間派遣労働を継続したいのに、雇用申し入れ義務を回避するために泣く泣く派遣終了せざるを得ないという事態です。これは「派遣労働者の地位を危うくする」と言っていいでしょう。
「無制限な派遣労働の拡大に歯止めをかける役割」ということは、結局のところ派遣労働を利用しにくくすることでできるだけ派遣労働を減らしたいということだろうと思います。もちろん、それで派遣労働は減る(増加が抑制される)かもしれませんが、それでは派遣で就労できなくなった人たちが常用労働者になれるかというとそんな保証はどこにもないわけです。もっと条件の悪い短期の有期契約とかでしか就労できない可能性もかなりあるわけで、となるとやはり「派遣労働者の地位を危うくする」ということではないでしょうか。

【規制改革会議の主張(抄)】
○ 労働政策の立案に当たっては、広く労働者、使用者を含む国民や、経済に及ぼす影響を、適切に考察するとともに、各種統計調査等により、実証的に調査分析することが必要なはずである。しかしながら、たとえば、労働政策審議会は、平成19年のパート労働法改正に当たり、差別的取扱いが禁止される「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」が具体的にどの程度の規模、存在しているかを把握していなかったのである。
厚生労働省の考え方】
○ 労働政策の立案に当たって、実証的に調査分析する必要があることは当然であり、現に、労働政策審議会の平成19年のパート労働法改正審議においては、既存のパート法の規定について、詳細な実態調査結果に基づき実証的に検討が進められたところである。しかしながら、新たに法定することとした差別的取扱いの禁止の対象については、その是非も含めて検討したことから、新たに設定された要件に完全に合致する者がどの程度存在するかについて過去の調査結果から把握できないことは、それ自体やむを得ないところであると考える。
 したがって、今般の第二次答申において、「改正パート労働法」の例を挙げるのは極めて不適切である。

まあ、これは厚労省の言い分がもっともでしょう。問題とされている部分は政治的な要請によって新たに法定されたもので、そこまで準備ができていなかったのは厚労省としても致し方のないところだと思います。ただ、厚労省自身が「把握できないことは…やむを得ない」と言っているそのデータについて、その後の国会答弁などで、「4〜5%」などと、根拠のない(おそらく実態をかけはなれた)数字が持ち出されたことは大問題でしょう。そのうしろめたさが、「極めて不適切」という強い表現に現れている…というのは私の邪推です。