キャリア辞典「テレワーク」(1)

「キャリアデザインマガジン」第65号のために書いたエッセイを転載します。


 このところ、経済財政諮問会議労働市場改革専門調査会が「テレワーク」について議論している。どうやら、専門調査会の「第2次報告」はテレワークに関するものになるらしい。
 「テレワーク」というのは、telescopeやtelephone、televisionといった語にならって、「遠隔」を示す接頭辞のteleにworkをくっつけたものだろう。場所的に拘束されず、職場を離れた場所で働くという雰囲気がよく出た造語だと思う。もっとも、専門調査会の配布資料をみると「テレワーク」のあとに括弧付きで(在宅勤務)と書いてあるので、たとえばサテライト・オフィスのようなものは専門調査会のいうテレワークには含まれないらしい。なお余談にわたるが、「テレワーク」「日本テレワーク」という企業もある。ただし前者は電話オペレーターサービス、後者はテレビ番組の制作会社なので、ここでいうテレワークとは直接の関係はなさそうだ。おそらくはテレフォン+ワーク、テレビジョン+ワークを短縮して社名としたのだろう。
 さて、例によって日本経済新聞のデータベース「日経テレコン21」を使って「テレワーク」の日経新聞の初出を調べてみると1994年9月にさかのぼる。福島県いわき市に全国初の「テレワークセンター」がオープンしたことを伝える記事で、「21世紀の高度情報社会の到来と、それに伴う人々のライフスタイルの変化に備えた挑戦」「職住近接のモデル施設として導入」「高度情報通信網とコンピューターを活用」などの言葉が並んでいる。1995年4月には「郵政省は12日、地方などでの遠隔地勤務に道を開く「テレワーク」の普及を本格的に支援する方針を明らかにした。具体的には、(1)補助金で各地のテレワークセンター建設を支援する(2)14日に研究会報告を出し、推進ビジョンを示す(3)フォーラムを通じて産業界などの推進意欲を高める――などが柱」という記事もみられる。当時は在宅に限らず「遠隔地」勤務という日本語をあてていたようで、たしかにこちらのほうが「テレワーク」に近いかもしれない。当時の郵政省はテレワークを地方にUターンしてきた人材などを雇用する「田園型」、都市部で交通混雑緩和のために導入する「都市型」、災害時に交通手段が途絶えた際、各地にテレワーク出張所をつくって行政サービスを提供する「災害対策型」の3類型に区分しており、現在のようなワーク・ライフ・バランスのためのテレワークという観点は薄いようだ。むしろ、阪神・淡路大震災の経験などをふまえて、災害時に従業員が出社しなくても事業を継続できるといった議論が注目されていたらしい。
 いずれにしても、テレワークはすでに10年以上前からその導入・普及が政策として推進されており、その結果、国土交通省の「2005年時点のテレワーク人口推計(実態調査)」によると、わが国では週8時間以上テレワークを行う人が674万人で労働力人口に占める割合が10.4%、週8時間未満の「広くとらえたテレワーカー」を合わせると2,521万人、同じく38.9%となり、これは世界一の水準だという。
 もっとも、それで十分に普及していると考えられているわけではなく、政府のIT戦略本部はこの5月、「テレワーク人口倍増アクションプラン」を発表、2010年のテレワーカー比率を2005年比倍増の20.8%にするとの方針を打ち出した。ワーク・ライフ・バランスが注目を集める現在、今日的な課題としてその行方が注目される。