第18回日本キャリアデザイン学会研究大会(3)

 昨日、一昨日に続いて第18回日本キャリアデザイン学会研究大会の感想です。今回で終わりたい(笑)。
 2日めの午前中は自由論題で、この中ではJILPTの藤本真先生の報告が非常に興味深いものでした。
 転職時に45~54歳だった「後期ミドルエイジ転職者に着目し、同じく35~44歳の前期ミドルエイジ転職者と比較しつつ分析したもので、まず転職前後の企業規模の変化をみると「大きくなった」が40.0%、「変わらない」が28.8%、「小さくなった」が31.0%となっていて、これは前期ミドルエイジでも大差はないようです。なんとなく小さくなることが多そうな気がするのですが、中小企業から中小企業への転職が大半だとすればこんなものかもしれません。同業種への転職者は68.2%、同職種内での転職者は82.1%を占めていて、これまた前期ミドルエイジと大差ないようです。
 月給については低下が32.8%、上昇が40.4%で、役職については低下が20.5%、上昇が23.0%となっており、いずれも前期ミドルエイジに較べてやや低下しやすく上昇しにくいことに加えて、後期ミドルエイジのほうがばらつきが大きいという結果になっています。月給の変化は厚生労働省の「令和2年転職者実態調査」と近い結果となっており、実際に転職した人の実態としてはこんなものなのでしょう。
 さて本論はここからで、後期ミドルエイジの転職がどのような「社会的つながり」を通じて実現したのか、それが就業条件にどのように影響したのかが分析されています。
 結果としては、ハローワークとの接触頻度は月給に有意にマイナス、就職説明会への参加頻度は月給に有意にプラスでスキル・経験の活用度に有意にマイナス、業界団体・同業者団体との接触頻度は月給に有意にマイナスでスキル・経験の活用度に有意にプラス、民間の職業紹介機関との出席頻度はスキル・経験の活用度に有意にプラスとなっており、役職の変化については有意な結果は得られなかったようです。職種変更しても賃金を上昇させたい人は就職説明会に行き、賃金は下がってもスキルを生かしたい人は業界団体・同業者団体を活用するという解釈は興味深いものがあります。民間職業紹介機関もそれなりに役立っているといえそうです。
 午後は研究大会企画委員会のシンポジウムで、まずは「時空を超えた自律的な働き方を促すための挑戦」というテーマで株式会社パソナJOB HUBの加藤遼事業統括部長の講演があり、同社・同氏が推進している「JOB HUB Local」、「旅するように『はたらく』」をキャッチコピーとしたローカル企業と副業希望者のマッチング事業などの紹介を中心にお話しされました。続いて、同氏とリクルートワークス研究所の辰巳哲子氏、オーストラリアで留学仲介を営むICC Consultants Australia Pty Ltd.の高橋梓氏がパネラー、法政大学の石山恒貴先生がコーディネーターとなり、同じテーマでのパネルディスカッションとなりました。
 辰巳さんからはご自身が最近まとめられたレポート(https://www.works-i.com/research/works-report/item/gettogether_220720.pdf)をふまえて「集まることに理由が必要となった」との問題提起があり、高橋氏からはオーストラリアにおける留学などの現状が紹介されました。その後の議論も活発かつ多岐にわたるもので、最後は「主観の共有」という耳慣れないコンセプトで盛り上がるなどなかなか面白く、いろいろとこれまでになかった新しい試みが進んでいることをうかがい知ることができました。
 私はこの4月から労働審判員を務めているのですが、この世界には「書証は赤面せず」という格言があるそうで、たしかに「さてこの和解条件で当事者が受け入れるかどうか」といった(当事者の顔色を見ながらの)判断はオンラインでは困難を伴うように思われますし、審判官(裁判官)と二人の審判員が認識をあわせていくのは「主観の共有」にかなり近いのではないかなあ、という感想を持ちました。現実には私がやったことないだけで、パンデミック下においてはオンラインの労働審判も相当数行われていたようなので、思うほど難しくもないのかもしれませんが(申立人や相手方が審判廷をいちいち出入りするという手間はオンラインのほうがはるかに簡単にすむでしょうし)。このあたり、オンラインとリアルで解決状況がどのように異なるのか(異ならないのか)、調べてみると面白いかもしれません。簡単にはいきそうもありませんが。
 ということでたいへん充実した2日間ではありましたが、「時空を超えて」というテーマにもかかわらずやはり私としてはリアルでやってほしかったかなあと思うことしきり。来年は九州産業大学でリアル・リモート併用で開催の予定とのことですが、しかし福岡となると手弁当の社会人会員には旅費の負担が重いなあ。まあ四の五のいいながら結局は行くと思いますが。