日本キャリアデザイン学会第18回研究大会(1)

 この週末、日本キャリアデザイン学会の研究大会が開催されたので参加しました。途中パンデミックで1回中止になったのをはさんで今回が第18回。昨年に続いてのオンライン開催です(配信拠点は大正大学)。実は金曜日は福島県に出張で南相馬市に宿泊したため、土曜日のプログラムの半分以上は移動の列車内で聴講しておりました。便利な世の中になったものだ。
 さていくつか感想を書きますと、土曜日午前中の自由論題ではパーソル総研の小室銘子さん・赤座佳子さんと都立大の高尾義明先生の報告を面白く聞きました。高尾先生といえばジョブ・クラフティング(JC)ということになりますが案の定で(笑)、JCを実践するパーソル総研の1か月の研修プログラムの受講前後における変化を測定したというものです。
 結果としてはキャリア自律心理・キャリア自律行動・およびタスクJCと認知JCにおいて研修前後で有意な正の変化があり、研修の有効性が確認されたとのことでした(関係性JCは有意な結果が得られなかったようですが、これは1か月という期間がやや短いためかな、という気がします。違うかな)。属性別には大きな違いは認められず、幅広く有効な研修のようです。
 さらに、タスクJCの変化と認知JCの変化との間に有意な正の相関が認められたということで、これは仕事のやり方を見直して見ることが仕事の意義の再確認・再発見につながるとかそういうことかな。また、認知JCの変化と、職務自律性の変化、職務重要性の変化との間の有意な正の関係が認められたということで、これはまあ職場レベルでは自分の仕事の意義や価値を再確認したことでやる気や誇りが高まるとかいった話につながるのでしょう(かなり雑な解釈ですみません)。
 周知のとおり日本のメンバーシップ型雇用においては仕事は選べないのが基本であり、また人事はしょせん他人が決めることなので、どうしても配置や処遇などに対する不満は起きがちであり、したがってエンゲージメントは下がりがちであるわけなので、そうした場合にモチベーションを上げる手段としてJC研修は日本企業においてこそ必要とされているのかもしれないなとか、そんなことを考えました。あと非常に興味深かったのが受講者のインタビューで、特に効果のあった6人を対象にしたとのことですが、「『ごみ当番』の協力が得られにくかったので、文面で「皆でやろう」「やっている人に感謝を伝える」を加えてみた。」とか、どれも職場の実情をダイレクトに表現した労務担当者の心にふれるもので、読んでいてうれしくなってしまいました。いや本当に。
 法政大学大学院の太田栄司さんの報告もなかなか実感に合うもので、30代社員の離職する・あるいは残留する理由を、優秀層ー一般層、離職ー残留の2軸4象限で分析するというものです。優秀層の退職者は昇進の遅さではなく(まあ優秀層だから当然だ)キャリア自律度やキャリア選択の自由度への不満が理由であり、一般層の離職者は組織風土や組織の意思決定の複雑さが理由となっているとのことでした。
 そこから人事管理に対する員インプリケーションとして、昇進昇格やチャレンジしたい・できる仕事の付与というのは現実問題として全員が実現するには数が限られていることから、それ以外の、企業のビジョンとか仕事の社会的意義とかいったもので動機付けする必要がある、と提案されました。とりあえず人事権を手放すつもりはないようでした(まあ現実の企業がそうなのだから仕方がない)。ま、本家米国のパーパス経営も、人事管理的にはジョブ型で昇進昇格も一部少数のエリートを除けばかなり限定的な米国企業において従業員のエンゲージメントを高めるという意味合いがかなりあると思われるわけなので、似たようなものなのかもしれません。
 土曜日午後の自由論題では法政大学の松浦民恵先生と(一社)アンコンシャスバイアス研究所の守屋智敬さん・太田博子さんの「がん診断後の働き方へのアンコンシャスバイアスの影響」という報告を興味深く聞きました。アンコンシャスバイアス研究所なんてあるのね。
 さてこれはがん患者が診断後にどのような働き方を希望したか(判断の妥当性)、それが実現したか(満足度)などについてアンコンシャスバイアスや上司の関わり方の影響を検証したというものです。これまた非常に雑な書き方なので先生方には怒られるかもしれませんが、アンコンシャスバイアスを悲観的、楽観的、主観的(ステレオタイプやハロー効果)の3つに整理し、それに上司の関わり方を加えて妥当性と満足度の関係を分析したところ、妥当性については「悲観」がマイナス・「上司による理解・支援」がプラスに有意であり、満足度については「悲観」がマイナス・「主観」がプラス・「上司による理解・支援」がプラスに有意になっているとの結果が得られたとのことです。有意な結果ではないものの「楽観」については満足度をむしろ上昇させる傾向もみられたとのことで、アンコンシャスバイアスがすべて良くない方向に働くわけでもないという可能性もあるのかもしれません。
 午後のセッションでは他にも面白い報告があったのですが、今日は時間切れということで明日以降にしたいと思います。タグは本日のところはまあ人事管理でいいかな?