連合総研「キャリア形成への労働者及び職場組織の関与のあり方に関する調査研究」報告書

 (公財)連合総合生活開発研究所連合総研)様から、「キャリア形成への労働者及び職場組織の関与のあり方に関する調査研究」報告書『個々のキャリア形成と職場組織の関与のあり方』をお送りいただきました。これは賛助会員で会費を払っているから送られてきたのかな(笑)。いずれにしてもありがとうございます。
https://www.rengo-soken.or.jp/work/2019/10/011517.html
 内容はまことに連合総研らしいというか、連合総研でなければできない調査といえるように思います。連合傘下の労組に対するアンケート調査と、代表例・先進事例に対するヒヤリング調査を組み合わせたもので、アンケート調査は600を超える組織から回答を得ているという貴重なデータです。
 そこで例によって私の雑駁な感想というか言いたいこと(笑)を書いていきたいと思いますが、好き勝手書きますのでそう書かれると困りますという苦情もあろうかと思いますしそれは受け付けますがお手柔らかにお願いします(笑)。まずこうしたアンケートにきちんと回答しているということはやはりそれなりにしっかりした組織であるわけで、やはり大半は一定以上の規模の企業の企業別労組で専従者がいる組織となっています。したがって労使関係も基本的には安定的であり、労使協議のしくみなども整っているという環境にあるようです。まあ考えてみれば当たり前のことであり、雇用や賃金をめぐって紛争が相次いでいたり、労使が敵対的で不安定な関係であったりすれば、組合員のキャリアに関する事項の優先順位が低くなるのは不可避でしょう。
 いっぽうでそういった安定し成熟した労使関係を築けている企業というのはやはりいわゆる長期雇用慣行を主軸とした日本型の人事管理が定着しているわけで、逆にいうと従業員のキャリアに関する決定は基本的に企業に多くが委ねられているということでありましょう。あえて大雑把に単純化すれば、雇用と労働条件に関する事項は労使間の付議事項、人事(特に人事評価と昇進・昇格)に関する事項は会社専権事項という整理ができるのではないかと思います。この調査結果を見ると、強弱はあるものの多くの労組が組合員のキャリアに関する事項に積極的に、一部では活発に関与している実態があるのですが、具体的に中身を見るとやはり定年後再雇用制度やワークライフバランスに関する諸制度、あるいは転勤に関する事項などについては関与の程度が高く、それに次いで教育訓練や自己啓発となっていて、実は職業キャリアのコアであるはずの人事異動や昇進昇格にまで踏み込むことはまだできていない(というか、していない)という現状が見えるように感じます。報告書にも記載があるように、個別のヒヤリング先を依頼する際にもここで苦心があったようです。
 したがってヒヤリング先となった労組はたしかに先進事例であり、その取り組みには敬服するところも大きく、人事制度の適切な運用のチェックまで踏み込んでいるとのことです。おそらくは人事評価の分布が制度設計どおりになっているかということを点検しているのでしょう(これは大事なことで、たとえば昇給や賞与などについて交渉して協約したとしても、成績配分のベースになる人事評価が制度の建前を逸脱して低評価に偏るようだと協約の内容が正しく実現しなくなってしまう)。いかに労組に対してといえども人事が個別の成績を開示するとは考えにくく、となると執行部が組合員に対して昇給額や賞与額を調査してそれを集計、確認するというかなり手間のかかる作業が必要となっているはずで、まことに感服すべき勤勉さだと思います。
 とはいえ、まあないものねだりは承知の上ではあるのですが、組合員にとって最も切実な「キャリアの課題」は「上が詰まっていて昇進できません」「同期が次々昇格しているのに私は10年間同じ仕事」など、人事評価や昇進昇格に関する問題ではないでしょうか。これは報告書内にも少しですが確実に記載されていて、労組としてももちろんこうした課題は把握しているわけです。とはいえ、これは会社側も「専権事項」として最もガードの硬いところでしょうし、労組としてもなかなか効果的な対案は探せないところでもあるでしょう。というか、労使でそういった苦心を積み上げてきた結果として現状の(社内資格制度などの)人事制度があるのだと考えるべきなのでしょうか。このあたり、やはり先日ご紹介した鶴光太郎先生のご著書にもあったような「雇用システムの再構築」につながっていく議論になりそうです。