JILPT労働政策フォーラム「労働時間・働き方の日独比較」(2)

 昨日の続きです。フォーラムの最後は総括討論で、佐藤博樹先生が引き続きコーディネータ、パネリストは前半で報告に立たれたデュエル先生と高見先生に、在日独大使館のマルティン・ポール厚生労働参事官とわれらがhamachan先生こと濱口桂一郎JILPT研究所長が加わってのディスカッションとなりました。
 実はこのセッションは30分しかなかったのですがたいへん面白い展開となり、まずはhamachan先生が高見先生の報告に対して「働きすぎに関する問題提起と研究報告をいただいたが、内容を見ると情報通信技術の進歩・機器の普及などにより、仕事と仕事以外の区別が限りなくあいまいになって、ますます長時間労働・働きすぎをもたらしかねないのではないか」というまことに本質的な問題提起があり、主にこれに対して他の3人の先生方がコメントされました。
 高見先生はhamachan先生の指摘は核心をついたものである(実際、高見先生ご自身も前半の報告の中で類似の指摘はしておられました)ものの、それに対して的確に回答することは現時点では難しいという趣旨でコメントされ、さて独側のパネリストがどうコメントするかという展開となりました。そこでデュエル先生ですがご自身の法曹としてのキャリアを踏まえてコメントされ、判事という職業を選択したことで専門家として仕事においても私生活においても充実したキャリアを送ることができたけど、まあ働きすぎにならないような規制は必要だよねと、まあ大筋でそういう話で、それはそれで興味深いお話ではありましたがまあ功成り名遂げた大御所なのでそういうことなのでしょう。
 そんな感じでここまでは「日独比較」としては会場でもあれれれれという感を持たれていた方が多かったのではないかと思いますが、私としては最後のポール氏の話がまことに腹落ちするものでした。氏もご自身のキャリアについて語られたのですが、まず「私は大学を卒業してすぐ誰の指導も受けずに企業の経営を建て直す仕事をした。これは日本の企業の新卒者とはかなり違っていた」と述べられ、ほほおと思って経歴を見てみるとマンハイム大学で経営学Ph.Dを取ってるんですね。要するにまことに一握りというか上澄みのエリートであって、ここまで語られてきた「ドイツでは年間労働時間1,300時間台」とかいう話とはまったく別世界の人なのでした。でまあ2006年から2010年に在日独大使館のレーバーアタッシェをされたのちも日本に滞在されて経営コンサルタント業に従事されるかたわら筑波大学でも教鞭をとられていたということで、その当時については通勤時間が長かったこともあり「仕事のためだけに生きていた」とまことに率直な実態を語られました。
 ということでフォーラムは終了となったわけですが、日独比較という意味では最後のポール氏のお話にあったようにドイツでは働きすぎになるくらい働けるのは働きすぎなんてものともしないエリートだけに許された特権だということなんだろうなと思いました。でまあノンエリートは働きすぎになるほど働いたってなにもいいことないから1,300時間台しか働きませんと、まあそういうことなんじゃないかなあと。それに対して日本ではドイツに較べてかなり多くの人が働きすぎになるくらい働いたらいいことあるかもしれないねという状況にあるわけで、まあどちらがいいかは国民の判断でしょうといういつも話です。