毎月勤労統計調査

 積み残し整理の続きはこの話です。過去このブログで「みなさん調査・統計をナメすぎ」とかいうエントリを何度か書きましたが、まさかいちばんナメてたのは当の役人でしたというオチになるとは思いもよりませんでしたよ。中でも一番ナメてると思ったのは復元していなかった(普通に考えて誤った)データを「誤差の範囲」で片付けようとしていたというところでしょうか。もちろんそれ以外にもひどい話は多々あり、私も一応は統計ユーザーの端くれであるわけでちゃんとやってくれえと思うなあ。
 事情はいろいろと込み入っているようで詳細はよくわからないのですが、わかる範囲で雑駁な整理を試みると、まず(1)変更当初の問題としては(1)a「調査方法を変更するときに総務省と調整せずに勝手にやってしまった」といった手続の問題と、(1)b「サンプル調査に変更したのに復元を行っていなかったために誤ったデータになっていた」といった方法論の問題があったようです。

  • 4月9日追記:厚生労働省の高原正之氏から、氏の検証によると悉皆調査から抜き取り調査への変更は規定に定められた決裁権者による正当なもの(総務省との調整は不要)であり、(1)aの手続の問題はなかったとのご指摘をいただきました。ありがとうございました。

 次に(2)訂正時の問題としては、やはり(2)a「公開せずにを訂正はかった」といった手続の問題と、その結果として(2)b「必要なデータが一部散逸しており、過去データの修正がされず、誤ったデータが残った」という方法論の問題があったということでしょうか。あとはまあ(3)後処理の問題として、「厚労省幹部が同席した調査を第三者委員会の調査と説明した」という話で、これも手続の問題でしょうが、やや次元が異なるような気はします。以下これら一連の問題を人事管理面から考えてみようと思うわけですが、まあこなみかんレベルの話にしかなりそうにないのであらかじめそのように(だから日記タグにした)。
 さて背景としてはまず(1)abについてはもちろん組織や担当官のモラルや能力の問題がある(一部統計法違反にあたりそうな内容もあるわけで)としても、結局は「マニュアルは決められているがそれに必要なリソーセスが割り当てられていなかった」という話になるのでしょう。もちろん統計は重要であって十分なリソーセスが割り当てられるべきだというのは正論であり、きちんと検討・議論してほしいわけですが、ただ一方でリソーセス不足自体は役所に限らず世間一般にザラにある話であってあまり同情しようという気にもなりません(もっとも民間も立派にやっているかといえば往々にして不払い残業で対応してますとかいう話もありそうでそれほど威張れるわけでもない気もしますが。いやこれは官民を問わないかも)。
 事情が異なるとすれば、民間であれば(1)bの「至急システムの変更が必要になりましたが当座内部には使えるリソーセスがありません」という場合にはとりあえず手近な業者に発注して、費用はまあ現場の課長さんなり部長さんなりの権限で(価格により異なる)他の費目から流用したり、赤字を計上して開き直ったりできるのに対して、お役所の場合は少額の調達でも複数業者から相見積もりをとってとか何かと不自由だという話はあるのかもしれず(よく知らないので推測です)、となると内部のリソースが使えるようになるまで先送りするかと考える人もいるのかもしれません。(1)aも似たような話は想定され、総務省との調整がどの程度の手間なのかはわからないのですが、当方も先方も審議会やら委員会やらを開催してという話で持ちかけられた総務省の担当者もいい顔をしないということになると、まあ大した変更ではないのだし(復元をすれば、ですが)そのうち他の案件があるときにでもということで先送りしたいと思ってしまう人もいるのかもしれません。このあたりもちろんきちんとやってくれなくては困るわけですが、しかしまあリソーセス不足対応が手間ひまがかかるわりには評価されないという状況だと若干気の毒な感はなくもないかなと。でまあ良く言われる話ですが(これ自体は必要性もあるのでしょうからすべて悪いとまでは言えないでしょうが)比較的短期で異動する役所の人事の中では、引き継ぎが繰り返される中でうやむやになっていく、これは先般の障害者雇用「水増し」と似た構造の問題があろうなと思うわけです。
 そして冒頭でも書いたように(2)のところが大問題だと思うわけで、まあ役所としては「復元をしないというかなり初歩的なミスで間違った数字を十数年間出し続けてました」「修正しようにも必要なデータがなくてできません」というのはあまりに格好悪くて表ざたにできません(あくまで私のまったくの推測ですが)というところかもしれませんが、まあ手前勝手というか、統計をなんだと思ってるんだという話でしょう。もちろんこの間歴代の関係者が責任を問われることは免れないでしょうし、表ざたにした人たちがおそらくは最も叩かれるであろうという点に若干の理不尽はあるわけですが、それにしても、再発防止に加えて、リソーセス確保をはかる上でも統計業務の地位向上をはかる上でも一度は実態を白状しておいたほうがよかったのではないかと思います。また、現時点ではデータが残っている分しか修正されていないようですが、データがなくなっている部分についても、不十分であっても修正したほうがマシではないかという気もします。まあこのあたりは専門家の判断に任せるべきところでしょうが。
 なにやら他省庁ふくめ毎勤統計以外の統計調査でもあまり適切でない状況が見られるらしく、統計ユーザーとしては適切な統計情報が提供される体制整備を進めてほしいと思うところですが、なんかもうすっかり政争の具と化している感があって体制整備どころか統計の改良を言い出すことも難しくしてしまうのではないかなどと懸念することしきり。いやほんとちゃんとやってくれえ