久本憲夫『新・正社員論』

久本憲夫先生から、最新著『新・正社員論』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

新・正社員論

新・正社員論

久本先生は学士会会報の最新号(929号)に「共稼ぎ正社員モデルの主流化」という一文を寄せられていて興味深く拝読したのですが、この本はともすればステロタイプや思い込みで語られがちな「正社員」の本当の実態をさまざまなデータをもとに描き直した労作で、その上に立ってワークライフバランスの観点から新たな「正社員」像としての「共稼ぎ正社員モデル」の確率普及を訴えています。補論として非正規雇用、集団的プロセス(過半数代表制)、歴史的観点にも言及されています。
ただ、ないものねだりをすれば、労働時間口座や年次有給休暇の時効廃止(これは今般の民法改正にともなって時効が5年に延びるという話が実現すればかなり効き目がありそう)、割増ベースの拡大、転勤拒否権といった踏み込んだ提案をするのであれば、それがキャリアや雇用保障とどのように関係してくるのかについても整理してほしかったようには思います。エグゼンプションで転勤を拒めない人と、これら提案の恩恵を受ける人と、キャリア可能性や雇用保障が同じであっていいとも思えず、そこに踏み込まないことが議論の具体化の大きな障害になっているのではないかと思うからです。それが「労働時間口座」や「割増ベース拡大」といった提案に対していわくいいがたい「既視感」のようなものを覚える原因でもあるように思われます。