玄田有史編『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』

社研の玄田有史先生から、『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

実際、これだけ人手不足と言われていて、春闘でも4年連続で有額のベースアップが実現しているのに、マクロの数字を見るかぎり賃金上昇がはかばかしくないのは、常識的(なのか?)に考えて不思議な感はあります。この本は、この難問に対して、22人の専門家が16の回答をよせた論文集です。
「実はミクロでは総じて賃金は上がっている(非正規比率の上昇や内転効果で上がっていないだけ)」「実は人手不足ではない(不足しているのは低賃金の人手/高年齢者や女性にはまだ供給余力がある」「所定賃金は人員過剰時に下げにくい分人手不足にも上げにくい」「国際競争部門の動向が非国際競争部門にも波及」「非正規比率上昇などにより人的資本形成に遅れ」「賃金の調整は時間がかかるもの」などなど、さまざまな観点からさまざまな分析が提示されていて非常に面白く読みごたえがあります。多数の執筆者・多数の論文数にもかかわらず各章の連携が行き届いているのは編者ががんばったのでしょう。
現実にはおそらくこれらの要因が複合的に絡み合って現状があるのでしょうが、とりあえず私個人の当面の感想としては経験的に賃金に限らず雇用関連の調整には時間がかかるという実感はあり、(留保賃金が比較的高い)団塊ジュニアボリュームゾーンにまだ供給余力が若干残っているのではないかと思っている(すみません思っているだけで確認してません)ので賃金が大きく上げるにはもう少し時間がかかるかな、などと思っています。もう一度しっかり読んで、あらためて感想をまとめてみたいと思います。