プレミアムフライデー

いよいよ明後日の金曜日(24日)は初回のプレミアムフライデーということで、こんなニュースも飛び込んできました。今朝の日経新聞から。

 自民、公明両党は衆院予算委員会で審議中の2017年度予算案を27日にも衆院本会議で採決し、参院に送る方針だ。…与党は当初、24日の衆院通過を目指していたが、本会議での採決が夕方以降になり、各省庁や国会の職員の帰宅が遅くなる懸念があった。政府が働き方改革の一環として主導するプレミアムフライデーの初日にあたり、配慮が必要だと判断した。
(平成29年2月22日付日本経済新聞朝刊から)

国会審議、それも予算案の審議日程を送らせてまでプレミアムフライデーに配慮するというのですからなかなかの本気度と申せましょう。官民挙げての一大プロジェクトということで、まずは政官自ら範を垂れるというところでしょうか。
民間についても、供給サイドの小売・サービス業界では各社おおいに商売するぞと意気込んでいるようであり、消費サイドについても経団連が昨年末に会員企業あて「プレミアムフライデー実施期間における柔軟な働き方推進へのご協力のお願い」という協力要請を行っています。いわく、

 経団連といたしましても、新たなライフスタイルの提案というプレミアムフライデーの趣旨に全面的に賛同し、推進しております。とりわけ、今年度は「働き方・休み方改革集中取組み年」であることから、プレミアムフライデーを契機に働き方を見直し、プレミアムフライデー実施期間中の柔軟な働き方の推進にご協力いただきたいと考えております。
 会員代表者におかれましては、例えば、プレミアムフライデー当日の半日有給休暇(全日・時間単位を含む)の取得促進をはじめ、終業時間の前倒しやフレックスタイム制の活用等、各社で工夫し、社員の皆様が月末金曜日の午後は定時より早めに、できれば遅くとも午後3時までに仕事を終えられるよう、ご高配いただければ大変幸甚に存じます。
http://www.keidanren.or.jp/announce/2016/1213.html

ということで「3時までには帰れるようにしてね」という話になっているわけです。この文書によればその趣旨は「毎月の月末金曜日に、買い物、外食、旅行、ボランティア等、日常よりちょっと豊かな時間(各人にとって「プレミアム」「サムシング・スペシャル」と感じる時間)を過ごす習慣を創り出し、定着させることにより、働き方やライフスタイルの見直しを推進。結果として消費マインドの向上につながることも期待」となっており、まああれかな、3時に帰るということは定時で上がって一杯呑んで帰るというのは「プレミアム」「サムシング・スペシャル」ではないということなのかな。まあそうかも知らん。
もっとも、日経新聞の調べによると、消費サイドの動きはまだ手探りのようです。

 日本経済新聞社は大手企業を対象に、月末の金曜日の早帰りを促し消費を喚起する「プレミアムフライデー」に関して社員への対応を聞いた。退社時刻を早めるよう「対策を決定・検討している」企業が全体の約37%あったが、現時点では「特に対策は考えていない」という答えも約45%あった。初回となる24日の盛り上がりが、今後の制度普及の試金石になりそうだ。
…「従業員に対して何か対策を取るか」との問いに対しては、「対策を決定した」企業は全体の16.3%で「対策を検討中」が20.9%だった。
 一方で「特に対策は考えていない」という回答も約45%あった。その理由として、小売りや外食企業で多かったのが「当日にサービスを提供する側のため」。製造業では工場を持つ企業などから「部署や部門間の公平性を保つため」という声が目立った。
 自社の従業員に対する対策は「検討中」との回答が多いなか、ヨドバシカメラプレミアムフライデーを受け「店舗従業員も対象に、退社の時間を早めるなど勤務時間を調整する」という。同社では働き方改革の契機になると捉えており、日野文彦専務は「勤務時間を昨年に比べ3割程度減らす」と話している。
(平成29年2月22日付日本経済新聞朝刊から)

いきなり脇道にそれますがヨドバシカメラといえばかつて人事担当者がこんなことを言っていた会社であって大いに働き方改革に取り組んでもらいたいところですが、しかし勤務時間3割減はすげえな。書き入れ時のはずのプレミアムフライデーに店舗従業員も対象に退社時間を早めるというのも忙しい時間帯に従業員を減らすという話であり、どうやってやるのだろう。まさかメーカーからの派遣販売員の増員を要請するとかではこらこらこら、まあ在庫管理とかでIT投資をすればかなりの効率化が可能なのかなあ。
さてそれはそれとして本筋に戻しますと、まあこれはたしかに小さく生んで大きく育てる類の施策ではあるのでしょう。記事にもあるようにもちろん初回ははなやかにやって盛り上げをはかるのが周知宣伝という意味でも景気づけという意味でもよろしかろうとは思いますが、大事なのはそれ以降も息長く続けることだろうと思われます。
実際、先週末(18日)の日経新聞の記事(http://www.nikkei.com/article/DGKKASDZ17I8V_X10C17A2EA1000/)によれば、企業の取り組みは「有給休暇の取得奨励と月末金曜日の会議自粛の組み合わせ」「パートを含む全従業員…に対して全日休と午後の有休取得を認める」(勤続が短く有休が付与されていない人にも有休を認めるという趣旨だろうと推測)「全日か半日単位だった有給休暇を1時間単位で取得できるようにする」「フレックスタイム制度を利用」といったものが中心で「いきなりの制度化は企業にとって容易でない」ものの、試行的に「まず2月24日に全社の7割程度が午後3時に退社する。特別休暇扱いとし、午後6時までの賃金を支給する」「偶数月の月末金曜日の午後を有給休暇として認める」(偶数月半日なら毎月3時と同等だということでしょうか)といった取り組みも一部に見られるとのことです。
ということでもっぱら既存制度の活用促進であって新規にはなにもしないというのが主流であり、一部でヨドバシカメラなどのような踏み込んだ取り組みも見られるがまあ珍しいという状況のようです。となると、現時点で初回のプレミアムフライデーにプレミアムな午後を過ごす人というのは、供給サイド(小売やサービスなど)ではない業界で、フレックスタイム制などの整った大企業の、業務の調整が柔軟につけやすいホワイトカラーがメインであってそれどのくらいいるのさという規模で、やはり小さく生んで大きく育てるために今後継続的な取り組みが求められそうです。まあ今回も、規模は大きくないとはいえ見たところ購買力は比較的ありそうなカテゴリではあるので消費拡大という意味では人数以上に効くのかもしれません。購買力という観点では経団連も本年版の『経営労働政策特別委員会報告』では例の「年収ベースの賃上げ」の一例としてプレミアムフライデー手当などと書いていて本気かよもといなかなかの本気度だなあと思ったわけですが現実にもソフトバンクが月1万円のプレミアムフライデー奨励金を支給するとかいう話もあるらしく(http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/02/24-5.php)おおいにけっこうなことだと思います。たぶんそれを聞いて「そんなカネがあるなら通話料を下げろ」とか言い出す人というのが出てくるのではないかという気もするわけですが、まあプレミアムフライデーそういうデフレ脳を払拭することにつながるなら喜ばしい話ではあります。しかしあれだな、ソフトバンクといえば吉野家に行列ができるスーパーフライデーというのをやっていたような記憶もありこの手の話が好きなのかな。いやけっこうな話ではありますが。
さて気を取り直して(笑)もう一度本筋に戻りますと、プレミアムフライデーを小さく生んで大きく育てる、さらに拡大・定着させていくというのもなかなか骨の折れる取り組みだろうと思うところはあり(まあそうでなければ初回からもっと大規模になったはずであって当然だ)、いや趣旨には大いに賛同するので関係各方面にはぜひ頑張ってほしいと思います。
まず第一に重要なのは供給サイドが毎月最終金曜日に魅力的なコンテンツを提供し続けることではないかと思います。早く帰ればプレミアムでサムシング・スペシャルになるというよりは、プレミアムでサムシング・スペシャルなコンテンツがあるから早く帰りたいと多くの人が思うようにしていくことが大事なのではないかと思うわけです。過去繰り返し書いていますが、ホワイトカラーは今夜はデートだとか野球やコンサートの切符を買ったとか早く帰りたい理由があれば日中生産性高く働いて定時に上がるわけですよ。それと同じことで、できるだけ多くの働く人たちが「プレミアムフライデーには早く上がりたい」と真剣に思うようにすることが最重要だろうと思うわけです。長時間労働がヘチマとか働き方改革が滑った転んだとかいう掛け声でやるもんじゃないよなと。
そうなれば、たとえばフレックスタイム制などが未導入の中小企業で「わが社でもプレミアムフライデーに早帰りできる制度を」という声が強まって、制度の導入・拡大といった取り組みが進む可能性はあると思います。それでプレミアムフライデーの規模が拡大してさらに魅力的なものになれば、生産や運輸といった現場を持つ企業においても「私たちもプレミアムフライデーには早く上がりたい」という声が高まり、プレミアムフライデーには3時で操業を止めようとか、交替制勤務の遅番シフトを休みにしようとかいう話になる可能性もなくはないと思います。まあ経営サイドにとってはかなりハードルの高い話ではあるので、労働サイドの強力な取り組みが必要とは思われ、それこそ連合がおおいに旗を振ってはどうかと思います。
ということで相当に困難をともないそうであってどこまで続くのかという弱気も出てきそうですが、しかし本当に日本社会を大きく変えるポテンシャルのある取り組みという感もあり、今後の展開に注目したいと思います。
なお消費サイドの私としてもプレミアムフライデーには分相応にプレミアムでサムシング・スペシャルな消費をなしてこれに協力したいと考えているところ、24日午後の私の予定は15時から三井業際研の国際講演会であり(まあ講師がMITのProf.Charles H. Stewartであってプレミアムフライデーの話が持ち上がる前から日程が調整されていたので致し方ないのですが)、その後そのレセプションに少しつきあって夜はスポーツ社会学の研究会と、あれだなあまりプレミアムな感じはしないな。まあ来月がんばります(なにを)。